31 『44番ヒソカ3次試験通過第一号!!所要時間6時間17分』 リッポーがそう告げるとプツリとマイクの電源を切った。 「よくその状態で今まで生きてこれたな」 「余計なお世話です」 苦々しそうに顔を歪めるを見ないで会話するリッポー。 死を見るたび、こんな顔をしているのか。 そんなに辛いなら、止めてしまえばいいだろう。 それでもこの場にいる意味がお前にあるのか? 聞きたいことはすぐに脳裏で文章となったが、 それを喉に通す勇気はなかった。 「少し休んでいろ」 「…1時間だけ仮眠します。珊底羅、代わりを」 ふっと薙刀を振って盲目の美女を呼び出した。 盲目と言っても、彼女は目でなくても視覚できる故、 モニターと試験官の監視は容易なことだ。 【ここで画面と試験官を見て入ればいいのじゃな】 「そう。よろしくね」 はそう言って石床を靴で鳴らしながら後ろへ歩いていった。 「いつもああなのか?」 あれで、何故あんな結果を出せたのかが不思議だ。 『シャンはこの世の誰よりも危うい位置にいて、生きている。 それだけで俺には信じられないくらいの敬意を払えるね』 新人潰しの演説は正鵠を射っていた。 一般人のようにまだ死を悲しめる。 しかし、心に反して行動はその心を痛め続けなければ ならない位置にいることを強要する。 本当に、まだ生きているのが不思議なくらいだ。 【そうじゃ。あれは心根が真面目で慈悲深すぎる。 故に妾達はあれに仕えることを誇りに思い、そして愛おしむ。 に仇なす者は誰であろうと容赦はせぬ。心せよ】 「敵に回すつもりはない」 せんべいをパリンと割って口に入れる。 冷や汗で醤油が手につき、汚れを落とすのに服の裾でさっと拭いた。 誰よりも異質だ。 しかし、目をそらすことを誰にも許さない。 パチッ 1時間して、すっきりと目を覚ました。 それから反省するように壁に寄りかかり、首をうな垂れた。 「嫌になるくらい、本当に頼りないな私って」 この世界に来てもう少しで丸4年。 死を目の当たりにした人数は確実に3桁いってる。 誰かを殺したと言うのは、無きにしも非ずだが、 自ら手にかけたことは0だ。 武術を学ぶに当たって言われること、 “躊躇うな” 人を殴るにせよ蹴るにせよ、剣を振るうにせよ、 決めたら傷つけることへの躊躇でで隙をみせることなかれ。 それは人を殺めるにしても同じだ。 まずは己の身が最優先で、対峙相手の生死は三の次。 情をかけるのは全てを終えて余裕があったらの話。 だから、情を保てるくらいの強さが必要だった。 長くなった黒髪を結え直し、襟首をきゅっと締め直す。 逃げることは許されない。 優先順位を違えることも、許されない。 何度も自分に言い聞かせ、モニタールームに戻った。 【もう起きたのか。今し方2人目の合格者が出た以外、 問題はないぞ】 「合格者が出たの?誰?」 「301番のギタラクルだ」 リッポーは画面を切り替え、待合場所を映し出した。 そこではヒソカと見覚えのない細身の体で長い黒髪の男性が ヒソカと一緒にトランプゲームをしていた。 「念能力で顔変形させてたんですか」 試験官くらいになら見られてもいいですよってことね。 ハンター証は使用者が本人だけであるなら本名以外でも登録できる。 だから別に不正にはならないけど、せめて素性申告できる かどうかだけ聞いておくか。 「行ってきます。珊底羅もうちょっとお願いね」 は踵を返してモニターとリッポーから離れる。 向かう先はもう決まっている。