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上着をまた羽織直し、元の陣地に戻るクラピカをレオリオが
冷や汗をかきながら出迎えた。

「大丈夫かクラピカ?つーかお前に近づいても大丈夫か?」
「ああ、私には怪我はない……わかっていたんだがな。
たいした使い手でもないことも、刺青が偽者だということも」

自責の念にかられて申し訳なさそうにするクラピカ。

「しかし、あのクモを見た途端に目の前が真っ赤になって
……というか、普通のクモを見たけただけでも逆上して
性格が変わってしまうんだ」

それは、随分な過剰反応ね……。





「さあ俺でケリをつけてやるぜ!!さっさとそいつを片付けて
次のヤローを出しな!!」

レオリオが思い立ったように力強く前に足を踏み出したが、
それはあっさりとくじかれる。

「うふふ、それは出来ないわ。まだ、決着がついてないわよ」



「あ、この声は…」
「後察しの通り、君が捕縛したレルートさ」
「あちゃー。レオリオにかなり不向きそうな相手ですね」

はくしゃりと髪を軽く掴んだ。

レルートはファルシラウサギ売買しようと企んでいた企業
と契約していた精神科医だった。

言葉巧みで、人の心理を読み取るのが上手い。

ちなみにカイトに色目使ったのに効かなくて落ち込んだ所
を捕獲したという過去がある。

あの時はイイ男だと思ったけど、その後ジンさんと一緒に
暗闇の中に逃げた時は恨んだものだ。

「どうします?確かにまいった言う前に気絶してますけど」

カメラからはメモは丸見えでも受験者にはまったく見えない。

「これも試験の一環だ。自分たちの力でなんとかしてもらおう」

妥当な線ね。
レオリオは舌を鳴らし、クラピカに止めを刺す様に
勧めるが、クラピカはそれを断固拒否した。

「あの時すでに戦意を失っていた相手を私は殴ってしまった。
これ以上敗者に鞭打つようなマネはごめんだ」

あーらら、内部分裂始まってきちゃった。

「ねェあんたがいやなら俺殺ってやるよ。人殺した
ことないんでしょ?……怖いの?」

キルアの問い。

私がクラピカなら、間違いなく是と答える。

人を殺すのが怖い。

暖かい体温が消え失せ、まるでよくできた人形のように
なり、本人が本人でなくなるような瞬間。

否応なく魂という存在を信じてしまいそうになる。

あれは、私には恐怖だ。

「殺しを怖い怖くないで考えたことは無い。
それにこれは一対一の勝負。手出しは無用だ」

クラピカは口調を上げることなく言い返す。

「あ、ナルホドね。とにかくさ、団体行動なんだから
ワガママはよくないぜ」
「おったまにはいいこと言うじゃねーか。もっと言ったれ」

煽るなレオリオ。
それでもクラピカは主張を折らないのでレオリオは
青筋浮かべて怒声を吐いた。

「よーし!そんなら多数決で勝負だ!!とどめを刺すなら○!!
刺さないなら×を押すこと!!」
『それ決められた条件満たさないと作動しないから』
「あ、の声だ」

ゴンがアナウンスの声の主に気づいてぽつり呟いた。

「ええい!ならとどめ刺すのに賛成の人挙手!!」

で、手を上げるのはレオリオのみ。
進めようという頑張りが全部空回りの四面楚歌。

その内に拗ねてすみっこに座り込んでしまった。


トンパさんが何かしなくても危なっかしい人達だわ。
魔法瓶からカップへ紅茶を注ぎ、一息ついて一気に飲み干した。








「ヒソカが最終の間に入りました」

何にも起きない多数決の間を放って置いて違う受験者を確認して
いたらトップのヒソカが王手に手を伸ばしていた。

壁が開き、中で待っていたのは顔に大きな傷のある男。
去年試験官だった、ヒソカに恨みを持つ人。


「無限四刀流。ジャグリングは見事だけど、ヒソカには無意味よ」

あれくらいなら私でも避けられるし、受け止められる。
それを証明するようにヒソカは2本の湾曲刀を受け止めた。

「なんだ◆思ったより簡単なんだ♣」

ぐるぐる刀を回すのを止めて、ヒソカは口端を引きつらせた。

「無駄な努力御苦労様♠」

サヨウナラ。

血は、カメラレンズにも数滴飛び散った。