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先の対戦者のゴンとセドカンが自分の陣地に戻っていく。

「次は誰ですか?」
「マジタニだ。詐欺と脅迫で懲役108年」
「顔は凶悪ですね」
「傷はすべて整形手術の失敗だ」
「ご愁傷様です」

カッパ頭にボロボロの歯、ムッキムキな筋肉…少なくとも
これ好きな人いたらよっぽどのホラー好きかマニアね。
マジタニとクラピカが闘技場に上がった。

「今までに19人殺したが…19って数は切りが悪くて
イライラしてたんだ。嬉しいぜ」

胸にタトゥーされたハートを指差してマジタニは
クラピカに精神的圧力をかけようとする。

確かに、これが一般人であればそれなりの効果があっただろう。
しかし、クラピカには恐怖も、緊張の色も感じない。

冷静沈着の熟語が似合っていた。
マジタニのデスマッチを受け入れ、言われた通りに武器を
投げ出すクラピカ……何でマキビシとか持ってるの?
ってかどうやってそんなに武器隠し持ってたの?

「おいおい大丈夫かよクラピカは。ありゃ相当
ヤバそうな相手だぜ?」

レオリオの心配を、キルアは鼻で笑った。


どこがヤバそうなんだか。俺から見りゃあいつがただの
ホラ吹きなのバレバレなんだけどな。
まだトンパの言ってたの話の方が聞き甲斐あるよ。
間違いなく、は人を殺したことない、
もしくは故意に殺したことはない。
の目は不思議な金で、吸い込まれそうだけど、狂気
とか殺意とか、そういうのが欠けていた。
…そういえば、ゴンもそう言う意味じゃ同じか?
ふと、ゴンを見ると、レオリオにゾクゾクしないから平気と
あやふやな説明をしていた。
ホント感性で生きてる奴だな。
キルアは真一文字に結んでいた口を緩めた。
試合開始の合図にマジタニが飛び上がった。


「ひゃおっ!!!」


予想より高く飛び、拳をぐっと握り、全体重をかけて
クラピカの頭上から拳を振り上げた。

ドゴッ

床が割れ、礫があたりに飛び散る。 「床を素手で砕きやがった…!!」 床から拳を抜く時、文字通りクラピカの目の色が変わった。 マジタニの背中に張り付いている、12本足の 蜘蛛のタトゥー。 「くくく、ドウシタ?声も出ないか?俺様は旅団四天王 の一人マジタニ。一発目は挨拶代わりだ」 マジタニは意気揚々と台詞を並べている。 モニターでそれを見ているは、いたって普通の 表情でリッポーから分けてもらったお菓子を食べていた。 「手に何か仕込んでます?」 「右手だけ鉄板がな。痛くて1回のみの使用だ」 「あの人早目に刑務所入ってラッキーでしたね。 これ本物にバレたら殺られてましたよ」 旅団に四天王なんて存在しない。団長を含めて全てが平等。 それが幻影旅団だ。 クラピカ…話は、このことなんだね。 は、憂いた瞳で、悲しみの緋色を眺めた。 母の髪と同じ、鮮血の如き赤。 クラピカはクルタ族だったのか。 怒りに溢れたコブシはマジタニの顔をさらに潰した。 「3つ、忠告しよう。 1つ。本当の旅団の証にはクモの中に団員ナンバー が刻まれている。 2つ。奴等は殺した人間の数なんかいちいち数えない。 3つ。二度と旅団の名を語らぬことだ。 さもないと私がお前を殺す」 一発でブッ倒したマジタニに八つ当たりの怒りをぶつける クラピカは、昔の自分を見ているようで心が痛んだ。 「憎悪に塗れた色」 は、目を伏せた。 これは、自業自得で片付けるには難しい問題だと、 クラピカは気づいているのだろうか。