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「…忌々しい名前を聞いちまったな。
予定も狂ったし、気分が悪い」

また手錠をし、嫌みたらしく舌打ちしてベンドットは
壁に背中を預けた。


『命は、あんたが奪っていいほど軽くない』

たった15・6の小娘に一蹴され、捕まった。

そしてこんな退屈なムショ暮らしを強いられている。

恩赦を全部受けたとしてもシャバに出ることは出来ない
俺にとって、と呼ばれたあの小娘を犯して、殺す
想像をするのが一番の楽しみだ。

そんな小娘が、名誉を得、全てに認められている
話を聞くのは腸が煮えるような気分になる。

「そう言うな。仲間割れしてくれればそれだけで時間を食う。
イコール俺たちの恩赦も増えるんだからな。
さあ次は僕だ。手錠を外してくれ」

今度は小柄な男が対戦のようだ。この男は見たことはない。
はまたキーボードの解除を入力して、手錠を外した。


「連続爆弾魔のセドカン。懲役は149年だ」
「爆弾魔であの体格、肉体戦は嫌がりそうですね」

次はゴンが戦うのか。

細い橋を渡り、ゴンとセドカンが向かい合った。



「さて、ごらんのように僕は体力にあまり自信がない。
単純な殴り合いの類は苦手なんだけどな」

胸に手をあて、自分の貧相な体を強調した。
ゴンはちょっと困った顔をして自分の意見を主張する。

「俺はそっちの方がいいな。あんまり考えたりすんの
得意じゃないから」
「やっぱり?」

……ゴン、ホントアンタはまっすぐね。
呆れたの感心したのか自分でも分からない脱力感が
体に圧し掛かった。

「そんな2人のために簡単なゲームを考えてみたよ」

そうセドカンは言って、懐から2本のローソクを取り出した。

「同時にローソクに火をともし、先に消えた方の負けでどう?」
「うん!わかりやすい。その勝負でいいよ」

勝負方法は確かに分かりやすいが、こういうのは罠を
仕掛けるのが常套手段!

図らずも、の推測は大当たりで、ゴンは短いローソク
と長いローソクの両極的選択を求められた。

「これは、ゴンには苦手な相手だったかな?」

どっちにしろ罠がある。それでどちらを選ぶのか。
これはちょっと楽しい展開かも。
そして、ゴンは長いローソクを選択した。
その選択理由は?



「だって長い方が長時間火が消えないに決まってるじゃん」


何も考えてないとしか思えなかった。

セドカンは長いローソクを投げ渡し、同時に火を灯した。

「セドカン、もう2本ローソクを持ってますね」

背中に隠してあるのがバレバレだ。

おそらく、一本は変哲のない長いローソク。
もう一本は仕掛けのある短いローソク。
つまり、どれを選んでも同じということ。

それに気づくのとそれほどのタイムラグなしに、
ゴンの持つローソクに異変が起きた。

火が強さを増し、溶けるスピードがまるでビデオを早送り
しているようである。

そんなピンチの中、ゴンが歯をむき出しにしてにかっと笑った。


「火の勢いが強いってことは、ちょっとの風じゃ
消えないってことだね」

ローソクを床に置き、ゴンは素早くセドカンの懐に入り込んだ。

「っふ」
「あっ・・・」

ゴンの一息で、儚く消える火。
ゴンのローソクは勝利を照らすように赤々と燃えていた。



「ほォ…いいバネしてるね」
「知識は足らなくても頭の回転は悪くないですよ」

簡易キッチンで勝手にお茶入れて飲む。
会ってみて知ったけど、ゴンは一般的知識が乏しい。
それは裏を返せば共通意識を前提とする知能的策略の
効果の薄さも意味する。
他人に教えられるスタンダードな行動を学ぶよりも、
自分で考えて行動する機会が多かったのだろう。

それは、これからも強い味方となってくれればいいが…。