27 「おっと、多数決の部屋の人数が揃ったな」 右側の画面に映し出される4人と、トンパ。 運が悪いのね。トンパさんじゃ足の引きずりしまくるよ。 は4人を気の毒に思いながら、カメラから送られる 映像を見ていた。 右と左の道で右を選択し、彼らは細い道を歩いていく。 「ちなみに、左はどんな道でした?」 「連続トラップ円形トラック1000mダッシュ。 時間制限は10分だったな」 「どっちもどっちってことですね」 1kmで10分ってことは、それなりにキツイトラップが 襲い掛かっただろう。 そして、更に道を進むと、底が暗くて見えない小島闘技場 が彼らの前に姿を現した。 「、そっちのキーボードのDELとENTERを同時 押ししてくれないか?」 「了解」 言われた通りにキーボードの2つのボタンを同時に押した。 すると、カメラに移る前の男の手錠が外れた。 「やれやれ、ようやく開放されたぜ」 頭から被る覆面を取り去ると、見えたのは体格のいい スキンヘッド男だった。 「あれ私がハンターになって最初の方に捕まえた奴ですね」 名前は忘れたけど、銀行強盗の主犯で、銀行員2人と客3人 殺して逃走中に捕まえた覚えがある。 「我々は審査委員会に雇われた"試験官"である!! ここでお前たちは我々5人と戦わなければならない。 勝負は一対一で行い各自一度だけしか戦えない!! 順番は自由に決めて結構!!お前たちは多数決、 すなわち3勝以上すればここを通過することが出来る!!」 ヘンドットのルール解説は非常に明快であった。 何でもありの勝ち負け勝負。 勝ち数が多かったら通ってもよしということだ。 「1番手はトンパさんか。魂胆見え見えね」 断言する。1分以内にこの戦いは終わる。「まいったァ―――!!!」
ほらね。 は目を軽く伏せて呆れたのと納得の入り混じった ため息を吐くのと一緒に4人の崩れた顔に噴出しそう な笑いがこみ上げてくるが、気の毒なので喉に手を あててそれを押し殺した。 トンパさんレオリオ狙いたがってるの丸分かりなんだもの。 私に新人狩りしなかったのも、私の人柄とかより私が 自分より強いと感じ取ったからに他ならないと確信してる。 「奴はちっとも変わらんな」 リッポーも呆れた声である。 はそれに心から賛同した。 「てめぇ」 レオリオが戻ってきたトンパの胸倉を掴んだ。 カメラから見ても分かるくらいの青筋が浮かんでいる。 「今はっきりわかったぜ。てめぇが他人の足引っ張って ばかりのクズ野郎だってな」 その気持ちは大なり小なり、3人も同じらしく、顔が険しい。 そんな中、トンパは自嘲するように言葉を紡いだ。 「そうさ、俺がハンター試験に求めてるのは合格じゃない。 ほどよい刺激さ」 は死に恐怖し、嫌悪するが、トンパは死に興奮を覚えた。 成長する過程を微笑ましく思うのでなく、 それが潰れる瞬間に、心が騒いだ。 それは、中毒のように次から次へと新しい刺激を求める。 そういった奴には、ハンター試験は格好の舞台だった。 「勘違いしない方がいいぜ。ハンターってのは綺麗事 ばかりの奴に勤まるもんじゃない。ですら、 それなりに穢れを見て、体験してるはずだぜ。 じゃなきゃ今まで生きてるはずがねえ」「その汚ねえ口で馬鹿にしてんじゃねえよ!!」
トンパの胸倉を掴むレオリオの力が強まった。 「馬鹿にしてる?反対さ」 その言葉に、レオリオの動作が止まった。 「俺は今活躍するハンターの殆どを見てきた。 そういった奴には独特の気配がする。 は俺が見てきた中で最もその気配が強い。 恐らく、否、間違いなく、その面じゃヒソカにも劣らない。 こういう奴は間違いなくどこか頭のネジが常人とは違う。 だがな、にはそれがない。 この異質さの意味が分かるか? はっきりと一般人と違う器を持っても、頭がついていかない。 それなのに3年経ってもはぶっ壊れてない」 スピーカーから聞こえる自分の批評をは他人事のように 冷静に聞いていた。 全員が、トンパの言葉に聞き入っている。 「はこの世の誰よりも危うい位置にいて、生きている。 それだけで俺には信じられないくらいの敬意を払えるね」 トンパはレオリオから離れて、奥まった場所で腰を下ろした。 「俺にはああはなれない。だからこの辺が潮時さ」 トンパのその告白は、どこか心の深い場所を ちくちくと小さく突かれる気持ちにさせた。