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飛行船から降りる準備をして、すでに飛行船の出入り口付近
で待機しているキルア、クラピカ、レオリオは時間になって
も現れないゴンの姿を探していた。

「ったく、どこほっつき歩いてんだゴンの奴」

レオリオのぼやきは周囲のざわめきに溶け込み、
試験が始まらないかそわそわしている。

「おーいキルア、クラピカ、レオリオー!」
「あ、ゴンお前今までどこいたんだよ」

手を振って走ってくるゴンにキルアはぶっきらぼうに
文句を言った。
ゴンはキルアの前で止まり、半透明のタッパを
1つずつ3人に手渡す。

「から預かってきたんだ。はい、約束のスシだって」

タッパから見える赤いのとピンクの生魚と卵は四角い
ライスに乗っかってラップにくるまれている。
それと黒い紙みたいなものにライスとか色々巻いてあるのが
入っているのがキルアには見えた。
クラピカも興味深そうにタッパの中身を見ている。

「へー。これが本物のスシなんだ」
「四角いのが試験課題だったニギリズシなのだろう」
「もう1つのは海苔を巻いて食べるからマキズシって言うんだって。
早めに食べないと腐るから気をつけてねってから伝言だよ」
「そんじゃ早速」

レオリオは嬉しそうにふたを開けてマキズシを1つ
口に放り込んだ。

「俺も食おうっと」
「では私も」

3人は朝ごはんがまだだったこともあるのか、見る見るうちに
スシはなくなっていった。

「あ〜らら、もう食べちゃうんだ。早いのね」

カツッと足音を鳴らし、は受験者の前に出てきた。

「!これ上手かったぜ。ありがとうな」
「朝食に丁度良い軽食で助かった」
「ただ欲を言えばもっと量が欲しかったな〜」

そして、に気軽に声をかけられる四人に嫉妬の
篭った視線が送られた。

「それで我慢してよレオリオ。では、受験者の皆さんには
試験会場に降りてもらいます」

カチカチカチカチ ポチッ ゴワアァァン

は出口の横にあるキーを操作して、シャッター
を開かせた。
少しずつ開かれる光景は、自分達の知る空と、
半径十数Mの円型の石柱の天辺だった。

「何もねーし、誰もいねーな」
「一体ここで何をさせる気なんださんよ」

受験者には疑問符が飛び交うだけで、答えを知っているで
あろうに視線が集まった。

「この円柱状の建物の名はトリックタワー。タワーの頂上で
ある、ここが3次試験のスタート地点になります」

カツッと厚底の靴を故意に鳴らして、受験者の目を引かせた。

「試験内容はこのタワーの下へ生きて降りること。
制限時間は72時間。
スタート合図は飛行船が飛び立ってからアナウンスを流します。
降りる手段・方法は何でもあり。
質問の類の返答は一切しません。
では、各々の受験者の健闘を祈ります」


は昨晩を同じく、綺麗に会釈して、飛行船の
中に戻っていった。

第3次試験参加人数42名は、小さくなっていく飛行船の
合図を一言も発することなく聴いていた。






「うわ、早速人面鳥の餌食者が…」

あれ普通に気持ち悪いから苦手なんだよ。

飛行船の窓から先ほど降り立ったタワーを観察してある
程度の距離を確かめた。
腰のベルトポーチに手をかけ、薙刀の刃の部分だけで
空間に切れ目を作る。

「額爾羅、トリックタワーの中心部にスペースホールを開いて」
【今日はご機嫌だな主よ】

昨日の金色の竜ではなく、金髪の少年として出てきたアニラに
は鼻歌を歌いそうな気分でそれに答えた。

「久々に本気のゲームが出来たからよ。それよりお願いできる?」
【勿論だ。ああ、それとネテロ、摩虎羅(まこら)
より次の飲み比べは負けぬとの言伝を預かった】
「ホッホッホそう簡単に負けるわしではないわい。
極上の焼酎用意して待っておる」
「2人して酒臭くならないで下さいよね」

際限なく飲むんだから、高いお酒でも無意味な気がするよ。

はストレス性の頭痛が起きない自分の体質に
感謝してアニラの作った闇に飛び込んだ。






グワアァン

空間の歪みが広がり、スタッとは地に降り立った。

「来たのかい。ご苦労さん」
「こんにちはリッポーさん、観察方として同席させてもらいます」

リッポーは壁一面に配置されたモニターの真ん中に座っていた。
はスタスタと隣まであるいて、同じように中央モニターを眺める。

「頂上脱出が20名ですかね」
「まだ2時間だから脱落者はいないがね」

リッポーは賞金首ハンターにして、刑務所の所長。
もリッポーの刑務所の脱出者0を頼りにして捕まえた人間
を何人か渡している。

「はどんな犯罪者でも必ず生け捕りにするおかげで
どんどん部屋が埋まってしまうよ」

せんべいをかじり、逆半円の目をに向ける。
は何にも言わないで肩をすくませた。

「1時間1年ですか。それでも全員が100年以上の懲役
ですから残り30年近くは必ず残りますね」

「人員減らしには丁度良い。44番をはじめ、受験者がボロボロ
殺してしまっているのも含めてね。……ああ、はこう
いった話は苦手だったね」

眉を潜ませるに気づいたリッポーは悪びれもなく
すまないと言った。

「いいえ、私は聖人でも善人でもありませんから。
100年以上となると大概が複数殺人犯ですし、私は死刑や
復讐、正当防衛での殺害を否定する気はありません。
自業自得。それで済ませられもします」


ただ、私は人の死を見るのが、怖いだけ。