#06
そしてその日の夜。
「やっっとバック戻ってきた〜」
自分の持ち物を兄弟から受け取ったはほっと一安心して息を吐いた。
「それで、そちらの選考はどのくらいかかりそうだ?」
ロビーの長椅子に兄妹3人腰を下ろしてから今の状況を
聞き出した。
「本戦初日に最後の試合して、次の日女子選抜集合。
このホテルが一番甲子園球場から近いからそのままこっち
にいるよ。監督は優勝チーム監督を採用するってさ。
今のところ全勝してるから師匠になると思う」
「ま、は確実に入るよな。あとさんも。そういえば
さん一緒にくると思ったけど、いねーな」
辺りを見回すがやはりいないようだと由太郎は思った。
「ミヤ君に用事あるとか言って会いに行ってる」
私と会う前の知り合いっていうのは驚いたけど、
良く考えると気は合いそうだよね、2人って。
「そっか。んで、大丈夫なのかよ、」
由太郎と魁は同じ気持ちでを見た。
今のはから元気だと気づいたのはおそらく兄弟のみ。
「……何で2人にはバレるかな…燐と香苗に会った」
「聞いたことのある名だな。六龍の友人か?」
「そうだよ。六龍のエースピッチャー紀野燐と
セカンドレギュラーの高野香苗。
私が裏切った相手」
「っ、あれはしょうがなかったんだろ!」
由太郎は勢いよく立ち上がって、周囲の人間がビックリ
してこっちを見てきた。
「由太郎、落ち着け。もだ。お前が気負うのは
致し方ないとは思うが、裏切りは言い過ぎだ」
魁は諭すようにへとそう語りかけた。
はふっと魁から目線を逸らした。
「あのさ、お猿君が一回、退部したんだよ」
あの時感情が動いたのは、裏切りの文字だった。
「少なからずお猿君に期待してたのは疑い様もない事実で、
それを投げ出したお猿君に怒ってた。それは、きっと
中学時代にあった人たち全員が同じだったんだよ」
私はそれなりの実績を持っていて、そして、信頼も勝ち得ていた。
1年からレギュラーになって、勝利に貢献してきた。
日本選抜で世界相手と試合して、プロの人にも交わってきた。
それは大きな期待があったからこそ出来たこと。
私は、それを放り投げた。
負けもしないで姿を消した理不尽で傲慢な行為。
怒りをぶつけられて当たり前のことだ。
「誰が何と言っても、私はお猿君と同じように周りが
見えていなかったんだよ」
罪の鎖と糸はまだ残っている。
生涯消えることはない、記憶の鎖。
「辛くないなんて嘘でもいえないよ」
肌に締め付けるような痛みが走っても。
「逃げられないことも知ってる」
それでも、その痛みを引きずってでも歩かなくてはならない。
「私は私なりの方法で、あの子達に謝るよ」
言葉だけで足りるものではなく、かといって行動にする
といっても出来ないこともある。
弱い私なりの贖罪を私はする。
「俺は、何もできねーのかよ」
俯いて、由太郎はそう問うた。
「しないで欲しいの。これは私の問題だもん。手出しは無用だよ」
「俺はが大変だったら助けたいし、守りたいんだよ」
ちょっとだけ悲しそうな顔をして、は座っていた
椅子から立ち上がった。
「私さ、魁兄にもユタにもすっごく頼って、寄りかかってたの。
多分これからも頼っちゃうと思う。でも、これは私の決着
だから…ね」
勝負と喧嘩は手出し無用。
それを彼らは理解している。
「無茶するなと言った所で聞かないのは知っている。
ただ、自分自身を追い込みすぎるな」
「はーい善処します。2人もやりたいだけやっちゃいなよ」
そう残して、はロビーを出て行った。
「お疲れさん」
エレベーターの前では壁に寄りかかってを待っていた。
はエレベーターの上ボタンを押した。
「大会開催前に決着つけるよ」
「OK。あ、御柳が試合絶対見に来いってさ」
「試合早目に勝たなくちゃだ」
私は華武と当たる高校を、その時はまだ知らなかった。
&御柳場面へ
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