#06,5
視点
「いやー懐かしいねえ御柳。まさかアンタが華武の4番
張ってるなんて夢にも思わなかったよ」
「そりゃこっちの台詞だっつーの。あの加西組の跡取りが
実は女で、しかもの相棒ってなんつー悪夢だよ」
ガムを憎そうに噛みながら御柳も悪態をついた。
マジで夢じゃねえのかと思う。
昔つるんでた奴等に連れられて東京まで行って会ったのが、こいつ加西。
同い年で160以上タッパのある奴は珍しくて、それ以上に年上が奴に
へコヘコしてんのにビックリした。
誰もが俺に
加西にだけは逆らうな。奴自身も強いし、バックに組がいる
と囁いた。
その言葉を証明するように、加西はやりたい放題してたし、
誰も自分の隣にいさせなかった。
だから、俺は反発した。
結果は俺のぼろ負けだったが、加西の顔面を殴ったのが俺だけと
聞いた時、少し英雄気分になった。
加西は俺と同じだ。
人を信頼するのも期待するのも止めた奴。
会う度に殴り合って、傷作って帰る。
その繰り返しが途切れたのが中1の初め。
たった3ヶ月かそこらの関係だったが、記憶には濃すぎるくらいだった。
だから俺の知る加西は中学の初めで終ってて、そんで今日、
奴があんな顔で誰かを隣にいさせるのは異様で、気色悪かった。
そして、否定したいが…羨ましかった。
「アタシの変わり様にビックリしたっしょ」
「ああ」
御柳はの問いに短い是を返した。
「だろーね。一人称も口調も変わったし、記憶ない間も
色々あったから、皆昔と今の落差にビックリすんの」
カラカラ笑うに、御柳は一寸の感情も見せない。
御柳は風船ガムを膨らませた。
大きく膨れて、パンッと音をさせてガムが割れる。
「だろ。キッカケ」
「大正解。その様子だと御柳も分かってるみたいだね。
の周りへの影響力の凄さ」
抵抗をものともせずに人の内へと入り込んで、誰にでもある
心の穴を塞ぐような心地よさをくれる。
は過去、親の後ろ盾に溺れて周りの信頼を自分で
手に入れようとしなかった。
そんな阿呆な考えを崩したのがで、彼女の隣は自分で
手に入れようと慣れない努力をした。
「はさ、本人が言うように冷静馬鹿なんさ。
周りとか良く観てるし、相手を思いやれる。
人の嫌な所見てもそれを受け入れられる器の広さに
助けられた人たちはいっぱいいる。
相手のために自分が敵にも味方にもなってあげられる。
それなのに他人気遣っても、自分をとことん気遣わない。
んでもって、いつでも本気でなくちゃって自分に強制してる。
力を抜く場所を見分ける人が側にいないとエネルギー出し切る
まで動き続ける。
まさにお馬鹿さんでしょ」
「惚れ込んでんな」
まるで愛妻家のノロケ話を聞いているようだ。
でも、気持ちは分かるのであまりとやかくはツッコめない。
「そうだよ。アタシはあの子が大好きだから
誰にもの相棒の座は渡さない」
「俺が欲しいのは相棒の座じゃねえ」
「の彼氏か…それじゃ旧知の馴染みで良い事教えてやろう。
焦って告白したら負けだよ」
「余計な世話だっつーの。俺そろそろ行くぜ。
明日開会式終ったら華武の試合だからと見に来いよ」
「アタシ等も試合だよ。出来るだけ早く片付けてくっから
試合長引かせな」
「無理」
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