#07








『これより第85回全国高校野球選手権大会の開幕です!』


アナウンスの音量は最大までメモリが上げられ、
夏の代名詞でもある甲子園が開幕した。


「見に行きたかったな〜」


ラジオの放送を聴きながらユニフォームに着替える
は未練がましくそう愚痴った。


「コールドゲームにできれば最終回には間に合うっしょ。

そろそろピッチャーしてみれば?さすがに連続完投じゃ
琴美だって疲れてるだろうし」

「ちょっと、聞き捨てならないわね。このくらいでヘバる
ような体力してないわよ」


の心配が癪に障ったらしく、琴美は眉を寄せてそう反論した。


「マウンドは琴美に任せた方がいいよ。

私は元来投手じゃないんだし」

「そのへん気になってたんやけど、何で
投手にならへんの?」


由乃からそう聞かれて、は黒帽子をかぶり、
ポニーテールにした髪を後ろの調節帯と帽子
の間に通した。


「簡単よ。私以外に良い投手がいたからなる必要はなかった。

私はその後ろを守りたかった。ただそれだけ」


ぱさりと髪を弾くように手放して黒い髪を散らした。

その舞うような黒の髪はまるで漆黒の翅。

「時間ね。今日も勝つよ」


「「「「「「「「当たり前!!」」」」」」」」




+*+*+*+*



その頃、甲子園球場では初日の第1試合が始まろうとしていた。





『さて今年で85回を数えるこの大会ですが、第1試合から
早くも注目の組み合わせとなりました。

まずは埼玉県代表華武高校!!

今年でなんと埼玉大会6連覇の強豪校です。昨年の成績は
ベスト8!今年こそは優勝候補と謳われております!』


堂々とした様子で華武高校はグラウンドに足を踏み入れた。

貫禄があるその出で立ちは優勝候補と謳われるに相応しい。


「悔しいけど華武の力は本物よ」


紅印は決勝での大敗を思い出しているのか悔しそうに
顔を歪める。


「全国でもあの力は十分過ぎるほど通用するぜ」


紅印に続いて影州も華武を持ち上げる台詞を言うしかなかった。


彼らは華武の勝利を疑っていなかった。

だから、これから来る光景に、目を疑ったのだ。





『対するは最激戦区大阪を制した豊臣高校!!

孤高のエース雉子村黄泉君は昨年アメリカより帰国し、
地元で旋風を巻き起こしている注目の選手です』


キジムラ…?

対戦校のアピール放送が轟く中、観客席の
猿野が目を大きく広げ、グラウンドを凝視した。




「プレイ!!」


主審の合図で雉子村が大きく振りかぶった。



投げられた刹那、打席の朱牡丹の目先には軌跡しか映らなかった。





「見えぬのは当然、高校野球界では決して体感できん速度、
これが100マイル【160km/h】の世界だ…」



黄泉の父親、九泉は細く、そして気味悪く笑んだ。




それは、これから甲子園球場に落ちる悪夢を
予兆するような……。















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