10 夕食と談話を済ませて客室に案内され、一息ついた。 なんというか、想像と現実は違うと改めて思った。 なんだあの家族。 ゼノさん朗らかなおじいさんじゃないか。 カルトちゃん普通に可愛い子じゃないか。 キキョウさんは…ちょっとぶっとんだ所はあるにしろ そこまでヒドイ母親でもない気がした。 少なくとも、子供への愛がない人ではない。 ……でも、空間の割には狭い世界ではある。 「クビラ、おいで」 は愛刀を振って、空間に切れ目を作る。 いつものようにチャラけた顔でクビラはの前に立って 挨拶した。 【お疲れさんご主人。今回はどこ調べるんだ?】 「門の近くにあるログハウスにゴン達がいるからちょっと 様子を見てきて。 キルアは地下の拷問部屋にいるっぽいからそっちは慎重に」 【承知しました。この家にもフツーの家鼠はいるからそれに 化けさせて忍ばせておくのでいいか?】 クビラはが頷いたのを確認してから数匹の子鼠を放った。 【この部屋は調べなくていいのか?】 「大丈夫でしょ。もし盗聴か盗撮されててもそれを弄くっ た後が面倒だもの。それに、十中八九もう私が何もしなく てもキルアは外に行けるわ。貴方に頼んだ調べものだって 確認だけの作業だしね」 はクローゼットにバスローブと女性物のパジャマが入っ ているのを確認し、バスルームに入って湯船にお湯を張る為 に蛇口をひねった。 白い湯気が心地よい暖かさを持っていて、温度を確認して 一旦バスルームを出る。 「1時間後に詳細を報告してちょうだい。 それまでに寝る準備するから。 話し相手に他の子呼ぶ?」 【平気だからリラックスタイム楽しんでてくださいな】 クビラは返事をしてテーブルセットの椅子に腰掛けた。 そしてポケットから端末を取り出し、読み終えてない小説 の続きに心を傾けた。 がバスルームに入って1時間ジャスト。 ガチャッとドアノブが回る音がして置いてあったパジャマ を着て出てきた。 「ふー、いいお湯でした」 【そりゃあ良かった。ゴン達は今日全員門開けることでき たから明日こっちに来るとさ。 キルアの方はきっちりブタみてーな次男から拷問されてた けどそんな堪えてないな、ありゃ】 「ゴン達はほっておいていいとして、キルアは明日ここ出 て行ける様子?」 【楽勝でしょ。ご主人はキルアを子供扱いしたいんだろう けど、子供は子供でも特殊中の特殊な子供って事を忘れちゃ いけないぜ】 は少しむくれた表情をするが、反論はない。 「なんていうか、二十歳にもなってないのに親の気分だわ」 親という漢字は"木の上に立って見る。" 上からの視線は彼らに見えないものも把握し、それ故口出 ししたくなってたまらなくなる。 そう言ったのは誰であったか、もう覚えていない。 【これも人生経験っつーもんでしょ。 俺等人間じゃないからんなもん必要ないけど、ご主人には 万金に値するもんだぜ。 面倒を嫌い、無知で傲慢で後先を考えないことを勇気と履 き違える人間は五万とこの目に映してきた】 クビラは己の漆黒の瞳を瞼越しに撫でた。 【このタイプの人間は俺マジで嫌い。 だから俺は後先考えすぎて心配性になって、己の意思を貫 き通す傲慢を受け止めて、無知であるが故に知識を欲する ご主人みたいな人間は大好きだね。 行動の結果がどんなものであっても、過程を軽視しないこ とが力になるからその先成長が面白い】 「私の場合はトゥエルブモンスター達なんていうとんでも ない努力のショートカットがいるけど」 【他力を利用することもまた力だよ】 クビラのその言葉を、は理解できても、心のどこかで 納得がいかなかった。 力は自力こそ尊ばれるべきものだ。 己が獲得し、コントロールできる力は誰にでも誇れる。 他力は他者への寄りかかりで、使いすぎれば怠惰になる。 は、獣達の力で、自分が怠惰な人間になることが、今 一番怖かった。![]()