09


中世フランスを思い出させる豪奢なドレスと細い首と小さ
な顔に巻かれた包帯。
キュインと音のする機械を目にかけ、外見的な情報はほぼ
ないような状態で、シルバの妻キキョウはと対峙して
いた。

「お噂はよく聞きますけど、本当に若い方ね」

つむじからつま先までじっくりと視線に入れ、キキョウは
そう言った。

「奥様も私と同年代のお子さんがいるとは思えないほど
素敵ですわ」

その台詞には嘘はない。
コルセットで絞めたにしても女性として羨ましく思うほど
細いウエストや包帯をしててもわかすすっきりした顎と首
のライン、唯一といっていい地肌の部分の唇はふっくらし
たいい形で、どんなに少なく見積もっても30代後半の女性
にはには思えなかった。

「あらそんな。これでも日々年の流れを感じざる得ないの
ですよ。この間も小さな私島で15名ほど殺ってきたのだ
けれど、5分も時間がかかってしまって。
以前は能力者がいようがこれほど時間はかからなかったのに
……先ほどだって貴方に避けられてしまったでしょう?」
「大変精密な絶でした。私ももう少しで頭部に風穴が開く
かと思ってしまいましたもの」

実際壁にはくっきりとした弾痕が残っている。
堅で弾き返すのでもよかったが、牽制には最低限の動きの
方が印象強いだろう。
キキョウは先にフリルのついた扇で口元を上品に隠して笑う。

「謙遜しなくてもいいのよ。キルアやイルミからの話でも
貴方の技術と経験の高さは垣間見えてきましたわ。
主人もずいぶん手こずったということなので是非お会いし
てみたかったので、この度我が家まで足を運んで下さった
こと、非常に嬉しく思っているのですよ」

女の戦いは互いの褒めあいに棘を埋め込むことなり。
こんな事は知りたくもなかったと常々思うが、できなくて
はいけないことは嫌がおうにも身についてしまうのだ。
ほがらかな微笑みと取り繕った言葉のやりとりは止めるも
のもなく、延々と続く。

「……俺をおいていくなよ」

一人その舌戦を聞いていたシルバはポツリと呟いた。

「あら、貴方が話題に入ってこないのが悪いのよ」

キキョウがからシルバに目線を移し変える。

いや〜こういう女性ならではの戦いに入るのはこの人じゃ
無理だろ。

それは心中で呟くだけに止め、きり良いところでゴトーが
夕食の準備が整ったことを告げに来た。


食堂は貴族や格式を重んじる裕福な家ではよく見かける豪
奢な長テーブルとセットの椅子がどでんと置いてあった。

椅子には日本人形のような子とシルバさんと同じ色の髪を
した老人が先に座っている。
ゴトーさんは子供の方がカルトという末っ子で老人がゼノ
というシルバさんの父で前当主であるとに教えてくれた。

は軽い挨拶と自己紹介を済ませ、ゴトーとは違う執事
によって椅子に案内された。

「本日は前菜にプロヴァンス風野菜のフラン(野菜などを
入れたプリン体の品)にスープは3種類ポタージュ、オニ
オンスープ、ヴィシソワーズ(冷たいジャガイモスープ)、
メインに子牛のフィレのロックフォールソース(ヒレ肉の
チーズソースかけ)、デザートは果実のムースと5種類の
ケーキとなっていますが、何かご希望はありますか?」

いつもの食事がどういったものかは知らないが、本日は
フランス料理らしい。

スープはポタージュ、デザートにチョコレートケーキを頼ん
で執事は一旦下がって他の人にそれを伝え、前菜をテーブル
に並べた。

先ほどの紅茶にも毒は入ってなかったので本音戦々恐々し
ながら食事に口をつけた。

食事の感想は絶品の一言に尽きたことをここに記す。