08 キルアの話を終えるととシルバは他愛ない雑談に時間 を費やした。 性別も年代も異なるが、自然と合う話題が見つかり、会話 の途切れが見つからない。 綺麗な焼き色のマドレーヌとアッサムの紅茶は目の前に置 かれたまま、ゆっくりと温度が下がっていく。 すっとゴトーの手が話の邪魔にならない程度の動きで受け 皿とカップを取り替えた。 「このまま街まで戻るのは面倒だ。ゴトー客間を整えろ」 シルバが命令するとゴトーは一礼して部屋から出て行く。 シルバの命令に若干の問いがあり、は首をかしげた。 「あら、私が泊まっていいの?」 一応若い女ではあるので奥さんはいい顔しないと思うのだが。 「家長は俺だ。キキョウから悪戯くらいはあるかもしれんが、 それくらいお前なら何とかできるだろう」 真っ向勝負なら早々遅れをとることはないだろうが、即効 性の毒とか盛られたら一発なんだけどな。 「奥様はジャポン出身の方なんですか?」 桔梗という日本名の花を名とするならそちらに縁のある人 なのかとは自然に思った。 「いやさっきまでいたゴトーと同じく流星街だ」 「へえ、流石」 流星街 それは、世界の吹き溜まりの地。 ありとあらゆる物、者、モノを捨てることが許される所。 私も何度か足を踏み入れたことがあるが、異質という言葉 のよく似合う場所だった。 ゾルディック……というよりシルバさんに付き添える女性 がその地にいたという事実は私を至極納得させる。 は足を組み直し、取り替えられた熱い紅茶に口をつけた。 香り豊かなそれにほうっと一息つける。 「毒の心配はもういいのか?」 「ん〜まだ若干心配ではあるけど、後ろの彼の殺意が緩んで きたから一応信用するわ」 せっかく最高級の葉を使ってもらってるんだからもったい ないし。 「…お前は奇妙だ」 「すごく嫌な断言しないでくれません?」 奇妙と言われて喜ぶほど私は老成も達観も諦めてもいない。 「信用する……俺にとっては1万人殺すよりも難しいことだ。 信用は他者の心理や動作を観察し、次の動きを予測、確信す ることとは別個のものだ。 それを俺は教えられず育ったからな」 綺麗な狐色のマドレーヌが1つ、シルバの口の中へと消え、 はシルバの次の言葉を待つ。 「キルアに友達ができたという報告をイルミから聞いた時、 俺はイルミの勘違いだと9割方決め付けていた。 キルアは俺と同じように信用や信頼を教えなかったのだから 友達ができるはずがないと。 そうしたら帰って来たキルアの目は変貌しているわ門には自 称キルアの友達が数週間の時間をかけて門を開けようとする わ、こんな珍事は長いゾルディックの歴史でも指折りだぞ」 ため息と共に紡がれたその言葉は、真実父親のものだった。 それを聞き終えると、は俯き、肩を震わせ、大きく息を 吐き出した。 「ぷ、あははは!!ヤバイ!これは面白すぎる!! 世界中の政財界、実業家、著名人に恐れられるゾルディック!! その実体は変化を嫌う引きこもり集団って誰も考えないよ!!」 遠慮のない大爆笑に身をゆだね、一通り笑いつくした後、 浮かんでいた涙をふき取っては話をしだした。 「失礼しました。いやーこんな年上の男性可愛いなんて思 うのいつぶりだろ。 確かに、時の移り変わりや人の変化は確かに怖いですよね。 私の場合は置いていかれる感覚がどうも恐怖感に繋がるら しいんですけど、あなた方の場合はそれ以前の問題なのかな」 そこでは一旦言葉を切った。 パン と乾いた音が壁から発せられ、それを避けて舞った黒の髪 が4,5本、床に落ちる。 はすくっと椅子から立ち上がり、扉の方を振り向いた。 「はじめまして、奥方様。ミッシングハンターのです」 「ごきげんようさん」![]()