03 「で、次はどこに行くんだ?」 暁が昇る。 湖の水面が光を反射させ、目に痛い程の明かりをぶつけて くる。 小さな石をその光に向けて投げた。 「野球チームの仕事片付けてからパドキア共和国。 その後は観察方最後のお仕事以外はフリーかな」 ぽちゃんと音がして、水に幾重もの円ができた。 カイトは春がせまると桜のような葉をつける木に腰掛、私 はカイトの膝の上に乗っかった。 そして、顎に手をあてられ、キスをした。 優しさと雄々しさの混じるキスに、私はむせかえる。 「何?こんなに私の体イジめ倒しておいて、まだ足らない って言うの?」 「久々なんだからいいだろ。俺だって時々馬鹿になりたく なることもある」 「どんな風に?」 「例えば……俺と仕事、どっちが大事だ?と問うとか」 「カイトだよ」 「……………」 「ちょっと、聞いておいてその豆鉄砲くらった顔は何?」 カイトの大きく見開かれた目にはむすっとした顔を 向けた。 「いや、お前のことだから"仕事と貴方は同種類で括ら れるものじゃないから質問の意味がない"くらい言うか と想像してた」 カイトがそう言うと、は納得した。 「それは確かに」 モノの種類として同一視することそのものが間違いだ。 でも、私にとって時間を割いているのは仕事でも、 大事にしたくて失いたくないのは疑いもなく カイトだ。 「でもさ、それは女である私の台詞じゃないの?」 「お前がこんないじらしいこと言うか? いや、言うわけがない」 「反意語で否定されても気分は微妙……」 そこまで可愛げないのか私。 …そう言えば、男への愛想なんて必要としたことがないか ら可愛げなんて生まれるはずないか。 強すぎるほど眩しい光は徐々に上へと上がってくる。 「そろそろ行くよ」 「相手はゾルディックだ。十二分に気をつけろよ」 「わかってますって。多分、私はいつか貴方を置いていく ことになるだろうけど、まだ大丈夫だから」 時渡り。 その役目が私をここに連れてきた。 そして、時渡りの役目が終れば、私はこの世界にいられな くなるのだろう。 それは……まだ先の話であってほしい。![]()