01 シャラアァァン 涼やかな音色が森に吸い込まれる。 「試験は終ったのか?」 カイトは後ろに現れた恋人に言葉を向けた。 「うん。ただいまカイト」 手土産に買ってきた紙袋いっぱいの荷物を足元に置き、 後ろからカイトの首に手を回した。 「おかえり」 数週間ぶりの彼の体温は夜中の気温のお陰で随分冷えていた。 それでも、声は変わらず、耳に優しい声だ。 「ふーん、あれがキャンプタイガーなのね?」 洞窟で火を焚き、一角獣のような鋭利な角に肉を刺した虎 が数百メートル離れた洞窟に数頭集っている。 カイトはその洞窟から少し離れた場所で彼らを 観察していたらしい。 普通なら火を恐れる獣は火を有効活用するとは… 味にこだわっているのか、それとも滅菌の作業なのか。 生肉のビタミンを壊しても焼いた肉を食べる理由が気になる。 「そうだ。今の所18個体確認済みだな。 お前の意見も聞いてみたいからよく見ておけよ」 「ラジャ。草とかを食べるのは確認したの? 火を使うのはこの場所だけ?」 「数種類のみだが、草木類の食べる様子はみた。ビタミン やらの必要な養分の補いはしっかりできてるみたいだな。 火はここともう一箇所で使ってる。 どちらも火が燃え移らないような石や砂利で覆われた場所 を選んでる」 「火種はどうしてるんだろ?」 「そこが今調べてるところだ。ここももう一箇所もすでに 火があって、それを絶やさない様に見張りが1頭か2頭。 毛並みや体格をみると、比較的老いた個体が担当してる。 それと小虎が枯れ葉、枯木の類は必要になったら取って きてるのをスピンとスティックが確認した」 「湿気た木は使わないし、火を維持する能力まである。 知能の高さも驚くところだわ。きっと毛皮とかも何かあるね。 生体捕獲系はできるだけしない方がいいんだけど」 「そうだな。ヘタに近づいてナワバリを荒らしたくない。 俺達がやるのはこんな風に遠方からの観察だけにして おこうと仲間内で話はついてる」 ポンポンと早めの会話のキャッチボールが続く。 その間に角から肉を下ろして貪るキャンプタイガーを観察 できた。 「虎って大体個人行動する種類が多いけど、この虎は集団 なのね」 「まだはっきりとは分からない。見つけたのは今月になっ てからだからな。火を使うのも集団でいるのもこの時期だ けの可能性もある」 「調査期間はあと1年はあるんだから丁度いいじゃない。 カイトは新種発見には向かないんだからこういう調査主体 でもいいでしょ?」 「おい。今軽く嫌味言わなかったか?」 「嫌味に聞こえても事実よ。時々しか手伝わない私と発見 数同等じゃない。ちなみに私、今ここでの新種発見数102」 カイトが気落ちしたように肩を落とした。 そうか、私にも負けたか。![]()