53 「うん。今日中にはそっち行くから。 …調味料とバッテリーと……うんOK。 じゃあまた後で」 ケータイの通話を切り、つま先でトンと床を叩いた。 ゴンが目を覚ますまで、丸1日かかった。 私はサトツさんにゴンの試験報告を任せ、 ハンターライセンスの発行手続きとプロハンター登録の 仕事の方を手伝っている。 ライセンス発行番号を名簿に書いてそのままFAXを送ったし、 これで一通り終わったか。 さて、講義の方でも覗いて来よう。 「おやさん。そちらは終りましたか?」 「あ、サトツさん。ゴンは目を覚ましましたか?」 「ええ。今頃イルミ氏と対面しているでしょう」 「やっぱり怒りましたか」 「静かな激怒でしたよ。針のようなオーラをしていました」 人形なんかじゃない。 キルアは、人形なんかじゃない!! ゴンは早歩きでサトツに教えられた部屋を目指した。 俺の命を使って、キルアを追い込んだ。 本当の家族が、兄貴がしていいことじゃない。バアンッ
乱暴に扉を開く。 長い机がいくつも並んでいて、合格者達は個々が散らばって座っていた。 ホワイトボードの前にはネテロとマーメンが立ち、先ほどまで説明を していたらしい。 ゴンはツカツカと迷い無く歩いて、イルミの前で止まった。 「キルアに謝れ」 「謝る……何を?」 とぼけている訳でないと何故分かったのだろう。 もしくは、とぼけていても同じ事だと割り切っていたのかもしれない。 「そんなこともわからないんじゃお前に兄貴の資格ないよ」 「兄弟に資格がいるのかな?」 体が宙に浮いて、とんと脚を床につける。 ぐんっと、腕が強い力で引っ張られた。 それでもゴンは掴んだイルミの手を離さずに、さらに力をこめた。 「友達になるのにだって資格なんていらない」 ビキッ 骨が鳴った。 折れたとは感じたけれど、イルミは表情を動かさなかった。 うん。やっぱりいつもの俺だ。 俺は何物何者にも心を動かさないでいられる。 なのに、どうしてあの時はあれほどへ苛立ちを向けて しまったのだろう。 今思うと自分の訓練不足を切実に物語っていた。 「俺はキルアに友達はいらないと思ってる。 情を移したらそれがあいつの弱点になるからね。 俺はキルが大事なんだよ。 キルはまだ未熟だから仕事でヘマしないなんて言えない。 ちょっとの失態で自分が死ぬのが俺達の仕事。 だから、キルの大事なものになりつつあったお前はいらないんだ」 ほら、またイラついてきた。 たった数日でキルアを知った気になっているゴンもも、 俺を人形のままにさせていてくれない。 ……というか、数秒たっても何で返答が返ってこないんだ? この様子ならすぐにまた癇癪を起こすと思ったんだけど。 「なんだ。キルアが大事なんだ」 ゴンは先ほどまでの怒りを納めて、イルミの腕を離した。 「でもキルアが大事だからって友達がいらないなんて間違ってるよ。 少なくともキルアは俺よりずっと強い。 それに、キルアはもう殺しはしたくないって言ってるんだ。 だからキルアの望んでる事をやらせてあげてよ」 「あのさそれ、俺の立場理解して言ってないよね?」 我侭だ。 試合を見たときも呆れるほど強情だったが、 こいつはキルよりも我侭だ。 「俺が直接キルアのところ行くからどこにいるか教えてよ」 「教える訳ないだろ」 「別にいいじゃん減るものじゃないよ」 「キルアが減る」「「「「減ら(ない)(ねーよ)!!!!」」」」
当初の緊張感は何処へやら。 漫才染みた押し問答はとサトツが教室に入るまで続けられていた。![]()