51 すっと顔にさしていた針を指と指の間に挟み、 キルアに背を向けてつかつか歩く。 「彼はどこにいあるの?」 「ちょ、待ってくださいまだ試験は」 トンッ 3本の針が刺さり、立会人の顔が変形する。 「どこ?」 「とナリの控え室ニ」 「イルミ!」 は声を荒げた。 「試験中の殺人を犯した場合、加害者に即失格を言い渡す 権利と義務が今私にはある。 試合終了前にこの部屋から一歩でも出てみろ。 その瞬間に失格させて敗北と屈辱のフルコースを 味あわせてやる」 「ふーん、そこまで彼が大事なんだ。 ホント、はまったく理解できない。 守る価値があるの? さっきの試合見てて分かったけど呆れるくらい先が 見えてない本当の子供じゃないか」 「ゴンもキルアも12にもならない本当の子供だ。 自分の周囲にある事にやっと疑問を抱ける、 世界を広げるスタート地点に立てたばかりの幼い友人だ。 隙もある。能力だって未発達。 無理やり大人になるなんて無茶させることも、 大人になる歩みを妨げることも、 私達年長者がしていいことじゃない。 そして、命を、全てを奪うなんて言語道断」 「君って本当にイライラするような事ばかり言うよね」 「理解力が及ばないからと言って八つ当たりとは見っとも無い。 知らなかったことに戸惑って、その戸惑いをなかった ことにしたがっている。 闇人形? 感情がない? それは自己認識の甘さを露呈しているだけだ。 その証拠に、キルアは迷っている」 汗を大量にかき、目の瞳孔を開いて、 この上なく二者択一の脅迫に怯えている。 ゴンを助けたいという気持ちが、 イルミの刷り込みと拮抗できている。 家から出たいと思った。 殺しが嫌だと言えた。 友達になりたいと願った。 感情がなくてこんなことが出来るはずない。 一歩右足を踏み出し、イルミでなくキルア に言葉を投げかけた。 「ここで私に判断を任せるなんて卑怯な選択だけはさせない。 戦いたいなら戦いなさい。 戦いたくないなら負けなさい。 どれを選んでも私達がゴンを守るわ」 扉の前ではクラピカとレオリオとハンゾー、 それに試験官補佐数名が覚悟を決めた目で 立ちはだかっている。 キルアは誰もが聞こえてしまう様な息の飲み方をした。 イルミのオーラが練られていく。 キルアを圧倒させる為に膨らんでいく。 キルアは肌でそれを感じ取り、脚を一歩引こうとした。 「動くな」 イルミが手を前に出した。 「「勝ち目の無い敵と戦うな」 俺が口をすっぱくして教えたよね? 少しでも動いたら戦い会試の合図と見なす。 同じく、俺とお前の体が触れた瞬間から闘い開始とする。 言っておくけど、俺は相手でも勝機はあるよ。 親父だって殺す前に依頼人がいなくなって 引き分けになっただけだ。 殺しの出来ない臆病者に俺は負けるつもりがないからね。 俺以外に聞く耳を持った事事態がお前の失敗だったんだ」 白い指先はゆっくり、キルアの銀髪に誘われ、近づく。 どくん、ドクン、どくん 心臓の早鐘が煩い。 なのに、いや、だから体が動かない。 動かなきゃ、倒さなきゃ。 ゴンが死ぬ。 負けなきゃ、言わなきゃ。 俺が死ぬ。 ………………もう………………。 「まいった」 ごめん。 「俺の、負けだよ」 俺は、ゴンと友達になる権利はない…。![]()