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「母さんとミルキを刺したんだって?」

……キルア。あなたそんな事してたの?

「母さん泣いてたよ」
「そりゃそうだろうな。息子にそんなひでー目にあわされちゃ。
やっぱとんでもねーガキだぜ」

「感激してた。『あの子が立派に成長してくれて嬉しい』ってさ」

反対の意味での泣いてたにレオリオはこけた。
分かってはいたつもりだけど私の知る"家族"と
異なり過ぎてる。

「『でもやっぱりまだ外に出すのは心配だから』って
それとなく様子を見てくるように頼まれたんだけど…奇遇だね。
まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんてね。
実は俺も次の仕事の関係上資格を取りたくてさ」

字面だけなら親しげだが、声から伝わる感情はない。
私の時だけではなかったのかと可笑しな所で納得してしまう。

「別になりたかったわけじゃない。
ただなんとなく受けてみただけさ」

キルアは虚勢を張っていた。
蛇に睨まれた蛙といった対立具合は見てて居たたまれない。

「…そうか、安心したよ。心おきなく忠告できる。
お前はハンターに向かないよ。
お前の天職は殺し屋なんだから」

突き放す言い方に私は自然と肩が揺れた。

「は黙ってね。アンタに出てこられると困る。
キルも俺も熱を持たない闇人形なんだ。
自身は何も欲しがらず、何も望まない。
陰を糧に動く中、唯一歓びを抱くのは人の死に触れた時。
俺も親父にそう作られ、キルも俺と親父にそう作られた。
世界が違う。まさにその通りだよ。
アンタの常識が全部通じないのがゾルディックだ」

あからさまな敵意がピリピリと肌を刺す。

私を拒絶するための手段。
言うからに絶対である父が興味を示した私。
過保護なまでに教育してきた弟が懐いてしまった私。
そんな私は彼の家族という集団に入り込む、
排除すべき異物だ。

…まさかこのキルアイジメも私への牽制の一環か?

闇人形になり切れてないのはキルアだけでなく、イルミも
同じじゃないか。

そしてイルミはまたキルアへと体を戻す。

「闇人形が、どうしてハンターになることを求めるんだい?」

じりっと脚が動いた。

「確かに…ハンターになりたいと思ってる訳じゃない。
だけど、俺にだってほしいものくらいある」
「ないね」
「ある!今望んでる事だってある!」
「ふーん、言ってごらん。何が望みか」

イルミに問われ、押し黙る。

「どうした?本当は望みなんてないんだろ?」
「ある!」

キルアはイルミの言葉を消すように大声を出した。

そして。


「ゴンと……友達になりたい」


素直な望みは、心に染み渡った。


「もう人殺しなんてうんざりだ。
普通に、ゴンと友達になって、普通に遊びたい」

か弱い本音は何よりも重かった。

どんなに望んでも、望む事すら許されなくても、
闇であるが故に光を求めた。

「無理だね。お前に友達なんてできっこないよ。
お前は人というものを殺せるか殺せないかでしか判断できない。
そう教え込まれたからね。
今のお前にはゴンが眩しすぎて測り切れないでいるだけだ。
友達になりたい訳じゃない」

「違う」

「彼のそばにいればいつかお前は彼を殺したくなるよ。
殺せるか殺せないか試したくなる」

「違う」

「なぜならお前は根っからの人殺しだから」

ぐっとレオリオが体を数歩前に動かした。

「先ほども申し上げましたが」
「ああわかってるよ手は出さねえ」
で、口は出すと。

「キルア!!お前の兄貴か何か知らねえが言わせてもらうぜ!
そいつは馬鹿野郎でクソ野郎だ聞く耳持つな!!
いつもの調子で調子でさっさとぶっとばして合格しちまえ!!」

私も人の事言えた義理でないがレオリオも
他人に無関心になれない人ね。

「ゴンと友達になりたいだと?寝ぼけんな!! とっくにお前等友達同士だろーがよ!!! 少なくともゴンはそう思ってるはずだぜ!!!」

「え?そうなの?」 イルミは心底意外そうに言った。 「そうかまいったな。 あっちはもう友達のつもりなのか。 よし、ゴンを殺そう」 夕飯のおかずを決めるノリで言う言葉じゃない。 否、イルミには夕飯を食べるくらい当たり前に人を殺すのか。 不穏に空気が揺れた。