49 「マスタさん。この子を隣の部屋へ。 治療も寝てるうちに済ませてしまって下さい」 「はい」 マスタにゴンを預け、レオリオとクラピカもそれを見送り についていく。 「でもよ、そいつ目覚めたらきっと合格は辞退するぜ。 不合格者一人なのにゴンが不合格なら俺達のこの他との戦いは 全て無意味になるんじゃないか?」 ハンゾーの質問の答えをネテロに預けるように目配せした。 「心配後無用。本人が何と言おうとゴンは合格じゃ。 仮にゴンがごねてワシを殺したとしても、合格した後で資格が 取り消させることはない」 一応の納得をして、ハンゾーは受験者の群れへと戻る。 その間際にキルアが。 「なんでわざわざ負けたの?」 と、問いを投げかけた。 先ほどからわけわからなそうな顔してたから、答えを ハンゾーに求めたか。 「殺さず「まいった」と言わせる方法くらいあんたなら 心得ているはずだろ」 これが試合でなけりゃレオリオかクラピカあたり とッ捕まえて降参させるとか。 しゃべるのが好きなら口車の乗せ方くらいは多少心得があるはずだ。 数人が同じく無言で返答を求める。 「俺は誰かを拷問する時は一生恨まれることを覚悟してやる。 その方が確実だし気も楽だ」 キルアはにはクエッションマークが飛び交う。 拷問した後は殺す。 対象者が死ぬのが絶対条件なキルアには その気持ちはまだ納得しがたい。 「どんな奴でも痛めつけられた相手を見る目には負の光が 宿るもんだ。目に映る憎しみや恨みの光ってのは訓練しても 中々隠せるもんじゃねー。 しかし、ゴンの目にはそれがなかった。 信じられるか?腕折られた直後なのによ。 あいつの目はもうその事忘れちまってるんだぜ。 ……気に入っちまったんだあいつが」 キルアはその答えに納得していない、戸惑った表情を見せた。 あの試合は、普通の人にとっても非常識だったが、 キルアの中でも非常識だった。 何で圧倒的不利なゴンが場を飲み込めたのか。 何で圧倒的有利だったハンゾーが最後に焦ってしまったのか。 答えは、ハンゾーもゴンを気に入ったから。 俺…ゴンを気に入ってんだよな? 「第二試合ヒソカVSクラピカ」 キルアは開始合図ではっとなり、少し慌てて元の場所に戻った。 「遊んでるな」 のヒソカとクラピカの試合を見た感想はそれだけだった。 クラピカは必死だ。しかしヒソカは遊んでる。 まあ、ヒソカが本気になったらクラピカが死んでしまう のでそれはいい。 だが、ヒソカはクラピカを利用できるかどうかテスト している様にもみえる。 ヒソカはクラピカがクルタ族だと知っているのだろう。 その上、自身が所属する幻影旅団を死滅させようと していることも知っているはずだ。 だから、奴はクラピカの使命を使ってクロロと戦うという 目的を果たすアイディアを思いついたのではないだろうか。 っち私が手出ししなくても、クラピカは旅団と 関わってしまうか……。 「クモについて、いい事を教えようv」 奇術師の甘い誘いに、赤い瞳は揺れた。 第三試合はハンゾーVSポックル 一言で言えば常識的な試合。 あっけないとも受け取れるほど早めにポックルは降参した。 しかしそれは自身の能力を見極めているという意味 では評価すべきことだろう。 第四試合はヒソカVSボドロ やはりここでもヒソカが圧倒的に優位だ。 軽い攻撃で血が床に落ちる。 こんな状況でああも粘ったのはゴンの試合を見て、年長者としての プライドを感じていたのかもと私は思ってしまう。 1時間くらいか、ヒソカはひとつ息をついて、 仰向けに落ちたボドロに囁いた。 ボドロは目をむいた後、負けを宣告した。 第五試合はポックルVSキルア 始めの合図が出されてすぐにキルアは「まいった」 と言ってしまった。 これは私も少なからず拍子抜けした。 対戦相手のポックルは訳がわからないを目を白黒させている のでキルアはいつものように、そう、ゴンの試合前のような 余裕のなさでなく、本当にいつもの悪戯な笑みを浮かべた。 「悪いけどあんたとは戦う気がしないんでね」 その判断が間違っていたと気づくのには、時間はかからなかった。 第六試合はレオリオVSボドロだったのだが、 レオリオが延期を要求した。 「こんな満身創痍の相手に勝ったライセンスじゃ 素直に喜べる自信がないからな。 少し休ませるくらいいいだろ? それにキルアもそこのカタカタ言ってんのも ぜーんぜん疲れちゃいないんだからよ」 私はそのもっともな理由に頷く。 ネテロも同じく頷き、許可を出した。 「よかろう」 そして、第七試合ギタラクルVSキルアが開始された。 「久しぶりだねキル」 先ほど、レオリオに指摘されたカタカタの音でなく、 しっかりとした人の音声が口から出てきた。 ズッ 左耳の長い針を抜く。 次は右耳、次は額、次は頭、次は鼻、次は口元、次は顎… どんどん不気味な針は抜かれ、著しい変化に誰もが 声にならない絶叫を上げる。 黒い、絹のような長髪と、白い滑らか肌、何も 感情を持たない不気味な目だけがそれらの美点を 打ち消す容姿をした青年が、元・ギタラクル。 「あ、兄貴…!?」 キルアの言いようの無い怯えは、ひどく違和感だった。![]()