47 時計の長針は3回同じ箇所を通り過ぎた。 もう、磨ききった白い床には血しぶきが幾重にも 重なり、固まっている。 ゴンは何度も硬い床に体を打ちつけ、傷を増やしていく。 血を飛ばさせたハンゾーの顔に汗が見えてきた。 ゴンの仲間のレオリオ、クラピカ、キルアは 留まることなく不穏に瞳を揺らしている。 「起きな」 ハンゾーの命令に、もううめき声しか上げられない。「いい加減にしやがれ!ぶっ殺すぞテメェ!! 俺が代わりに相手してやるぜ!!!」
我慢の頂点を越したレオリオは額に青筋浮かべて 怒鳴り声を上げた。 「……見るに耐えないなら消えろよ。 これからもっと酷くなるぜ」 ハンゾーの忠告はレオリオには挑発にしかならない。 ぐっと体を前に出そうとした。 「駄目」 ネクタイを引っ張られて、レオリオは軽く体勢を崩す。 ……あ、の声。 全然動かない思考で、痛覚以外の何かが入ってきた。 「何すんだ!!!」 ……レオリオだ。怒ってるや。 反対側にいたはずのがいつレオリオの前に来た のかは怒髪点を付いている彼には気にならないらしい。 「私は試験官。タイマン勝負に他人は手出し無用。 この状況で貴方に手を出され場合、まだゴンは諦めてない のに私はゴンを失格にしなくちゃならない」 ……諦める?失格? そんなのは嫌だよ。 は事務的な口調でレオリオを押し戻す。 「クラピカも下がりなさい。 ……あの子に最後まで戦わせてあげて」 その台詞かきっかけなのか、ゴンがゆっくり動いた。 鉛よりも重い足に鈍痛が走る。 体が熱くて、倒れてしまいたい。 「大丈夫……こん…なの、全然平気さ」 平気じゃないけど、まだ終りたくない。 まだ何も知らない。 親父のことも、ハンターのことも、キルアやレオリオや クラピカやのことも。 「ま…だまだ、やれる」 黒い瞳は、重い瞼の中でも鈍っていなかった。 ……ジンさんの目だ。 はこの世界で始めて見た人の目を思い出した。 大人なのに子供のような澄んだ黒曜の瞳。 その瞳を輝かせる未知という研磨。 まさに、ハンターになるべくしてなったと思わせる 目を持った私の師匠。 この目を見せてあげたい。 誰とは言わなくても指し示す名詞は察せられる。 ハンゾーはやっとのことで立ち上がったゴンを乱暴に 叩いてもう一度寝かせ、仰向けにして左腕を掴んだ。 「腕を折る」 ここまでやっても、何故言わない。 たった一言だ。 またチャンスは4回もある。 それなのに、何でだ。「本気だぜ、言っちまえ!!」
ゴンの代わりに、ハンゾーの瞳が鈍り、揺れ始めた。「い、嫌だ!!!」 まだやりたいんだっ!!!
ボキッィ
鈍く耳に残る、嫌な音。 脂汗が滲み、左腕が燃える様に熱くてゴンは 必死に痛みを抑える。 「これで左腕は使い物にならねえ」 あふれ出す怒りが肌に刺さる。 「もう止めるな、クラピカ。 あの野郎がこれ以上何かしやがったらゴンにゃ 悪いが抑えきれねえ」 「止める?大丈夫だ。 少なくとも、私が止めることはない」 レオリオもクラピカも、戦闘一歩前。 ……まだまだ未熟。しかし、とても良い仲間だ。 ゴン、思う存分やりなさい。 私が、貴方の戦いにケチをつけさせない。![]()