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カチャ
ドアを開けると、数日の部屋の主となった女性が
椅子に座っていた。

「座って」

はテーブルに置いてあったティーセットにお茶を入れる。
カップ2つに注いで、1つはクラピカの前に置いた。

「もう大体予想ついてるけど、話の中心は何?」

クラピカはが淹れた紅茶を一口飲み、喉を潤した。

一拍の間の後、少女のような柔らかい線の唇を揺らす。


「は緋の目を知っているか?」

「ルクソ地方の少数民族クルタ族が感情の高ぶりにより瞳
を緋色に染めたそれ。4・5年前に幻影旅団により、
死滅したと言われている。
……そして、貴方がそのクルタ族なのね」

「その通りだ。気づいたのは3次試験の映像か?」

「そうよ。緋の目の瞬間の映像は私が全部処理しておいた。
もう会長にも話はつけてあるから、協会側からこのことが
漏れることはないよ。
それで、私にその事を言うのは探し屋としての依頼?
それとも、旅団の情報提供?」

「どちらもだ。ミッシングハンターとして何度か奴等
と対峙したと聞いている。
奴等の対応策として、ほど有効な人物はいない、
そう噂されていることも。それが事実なことも」


旅団への有効的な手段。

旅団に引けをとらない戦闘力。

旅団との接触が可能なツテ。

それは復讐を誓うクラピカにとってどうしても
手に入れたいものだろう。

「頼む!私は奴等を倒したい!! 同胞を惨たらしく殺し、目を全て奪い去った あいつ等に同等の苦しみを味合わせたい!!」

……私は、復讐を肯定してもいいと思っている。 それは私自身、復讐したいと思った相手がいたから。 「緋の目の奪還と幻影旅団への復讐…… 天秤にかけた時、どちらが貴方にとって重い?」 私なら、遺族の遺体の一部の奪還を優先する。 もし、元の家族の目が欲望の追求の道具として使われた と考えるだけで心中は穏やかでいられない。 「どちらも、同等だ」 ……カイト、私に似た人は、ゴンだけじゃなかった。 「勿論すぐにとは言わない。 こちらの金銭の問題もあるし、が復讐自体を嫌悪 してもまったく可笑しくない。 この2つの情報がいくら位の見積もりになるか、 そしてこれらを知る術をが持っているかだけ 聞かせてくれないか?」 は質問に答える前に紅茶を喉に流し込む。 「今すぐにでも分かるよ」 ぬるい湯と香りと味が舌に残る。 美味しいのに、あまり美味しくないように感じた。 「緋の目の販売ルート、所有者の個人情報は勿論のこと 旅団との接触だってチャンスがない訳じゃない。 ただ……緋の目はともかくとして旅団の情報をクラピカ に教えるつもりはない」

「何故だ!!?」 「今のクラピカだと即死だから」

はクラピカの首に手をかけていた。 音もなく、カップの水面は微かにも揺れず、 映画のコマが飛んだ様に、 の手が首にかかったとしか思えなかった。 「本気を出さなくて、気まぐれでもクラピカの 命を奪えるだけの力量の差がある。 私は道徳の鎖から逃れてないからまだいい。 気まぐれでも本気でも人を殺さない。 でも、旅団は違う。 気まぐれで、暇だからで、戦いたいからで、 それだけの理由で人を殺せる」 クラピカの冷や汗がの手に落ちた。 それから数秒してからすっと手を引き、 はぬるい紅茶を平然と飲む。 「私は貴方達を気に入っていて、期待もしてるわ。 きっといいハンターになれるって。 だから無闇に命を落とす結果となる情報を貴方に渡さない。 私から旅団のことを引き出したいなら、 まずは強くなりなさい。 私と張り合えるだけの、あいつ等と対面しても 目的を果たせるだけの力をつけてから」 死なないで。 死のうとしないで。 せめて、死なない努力と結果を持ってきて。 本当は旅団の人も死んで欲しくないんだけど、 彼らが殺した命は多く、それ故重い。 その償いを与えようとする人がいるなら、 私はその人を止めない。 「私が言いたい事はこれで全部。 緋の目に関しては試験が終った後に教える。 今日はこの辺にしてゆっくり休んで」 「…最後に、1つ聞きたい。 は、奴等をどう思っている?」 「……彼らは私と価値観が異なる人達よ。 言葉でひとくくりにできないの」 クラピカも彼らも気に入っている私は、 誰も断罪などできないなのだから。