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飛行船の窓から街のネオンの光がキラキラと輝いている。

ゆっくりとした足取りの飛行船は私はあまり好きではない。

元の世界でも飛行機に何度か搭乗したことがあるが、
あれの方がまだマシだ。

でも、一番はシンダラに乗って風を感じる方が気持ちが良い。

風を感じたいとバイクに乗る暴走族の気持ちはあんなものか?

ああいう人って地雷の境界線さえ見極めれば愉快で繊細な人多いし。

直接的なものがないとふっきれられないんだろうな。


おかしな物思いに耽り、椅子に座ってそのままの体勢でいると、
空気に汗の臭いが混ざってきた。

この殺気の混じった気配は。

「どうしたのキルア?怖い顔しちゃって」
「……ああ、か」

俯いたままのキルアは声だけでを判断した。
上着を脱いで汗だくになったのは運動をしていた証拠。
銀色の髪で見えなくなっている目は今狂気に彩られているのだろう。

「…、俺って弱い?」

問いかけはとても簡潔で、難解だった。

「弱くはないね。年を考えたら強すぎるくらい」
「でも、あんなジーサンにも俺及ばなかった」

また遊んでるのかあの元気ジーサン。

「あ〜ネテロ会長は色々摩訶不思議な人だから比べる対象に
これほど不適切な人はいないと思うよ」

私だってあの人に勝てるかって聞かれて即答はできない。

経験値で言えば足元とは言わなくても腰くらいにしか
届いてないと思いたい。

「俺って暗殺者の人間なんだけど、その中でもかなり期待
されてたし、それに答えられるくらいは出来る自信はあった
けど…親に全部決められる人生って何か嫌で逃げ出してきたんだ」

「シルバさんはキルアの意見も聞かないの?
ならキルアが正解ね。自分の人生は1回こっきり。
自分のやりたくない事無理にする必要はないよ」


「俺、ここにいていいのかな?」

パシンッ

弱気な発言には両手でキルアの頬を挟むように叩いた。
キルアは一瞬何をさえたのか分からなくて呆然とを見た。


「キルア、貴方が今立っているのはゾルディック家
の敷地でもなければ、仕事の場所でもない。
ここは貴方が考えて、何かを思っている場所。
酷な事言うけど、貴方は純粋にはもうなれない。
血で真っ赤に染まってるって言われても否定できない」

この子が殺した人の数は、1本の指が100の単位でも
片手では足りないかもしれない。
その事実は消えないし、怨恨も残る。
過去の鎖に雁字搦めにされている。
まるで、昔の私のように。

「…キルアが今イラついてるのはネテロ会長に
敵わなかっただけじゃないでしょ。
貴方は自分が知らなかった人や世界に戸惑ってる。
それは親に決められた人生の外に出た紛れもない証拠よ。
もし、何も考えなくていい楽を選ぶなら、家に戻った方がいい。
でも、自分で考えた人生を進みたいなら、この試験を楽しみなさい。
間違いなく後者は辛いことが沢山ある。
嫌だと思うことも、面倒だと思うことも。
それでも、私はキルアの為に後者を薦めたい」


それからキルアは恐る恐る自分の頬に触れているの
手に自分の手を重ねた。

暖かい。

「甘えさせてくんねーのな」
「甘えたかった?」
「…甘えた事ないからわかんない。でも、アリガト。
もう少し遊んでみるわ」

「どういたしまして。もう遅い時間だよ。明日に備えて寝ちゃいな」
「ん、そうする。……一緒に寝ない?」

キルアの無邪気な悪戯顔付きで言われた最後の一言に脱力した。
あんまし心配する必要なかったかも。

「…そういうのはもっと成長してから私より可愛い子に言いなさい」
「え〜すっげー可愛いよ。でもどっちかって言うと綺麗?」
「一応褒め言葉として受け取っておくよ」
「本当なのに。まあ今はいいや。お休み」
「お休みなさいキルア」

最後に挨拶を交互にして私のキルアは分かれた。


キルアの束縛を解くのは私ではないだろう。

でも、いつかは解ける。

家族か…私の家族とは正反対よねゾルディックって。

私の家族は義理という言葉がつくけど、とても大切にして
貰えたし、同時に私を尊重してくれてた。

「元気かな」

会いたい。

家族にも友人にも…あの場所にも。

でも…同時に帰りたくないとも思う。

極端に違う思いを満たせることは、きっとない。