12











ゴンとクラピカのオーラが遠のいたのを見計らって
消えそうなほど小さな呟きを野に放つ。


「額爾羅、“空間の狭間(スペースホール)”」


フワ

アニラはの姿を見るなり、
そっと寄り添うようにへと近づいた。


【主よ。生きていれば死はやってくる。それは仕方がないのだ。

だから、その美しい雫を零すのを止めてくれ】


の両目から、1つ、1つ、透明の雫がこぼれる。

アニラはこの状況とは裏腹に、それが美しいと感じた。


「私がもっと早く着ければこんなに死なずにすんだ」


あの時、私だけが、止められる事が出来たのに。


【それでも、主の所為ではない。では、運ぶぞ】


シャラァンと涼やかな音色が鳴る。


ヒソカに殺された受験者を空間の狭間へと吸い込まれていった。


彼等の亡骸が家族の元へと帰れるように。



【……主よ、主は強いが我等は心配だ。

この世界に1人で来てもうすぐ4年経つが、今も生き残っている。

死を幾度もその眼に映しているにも関わらず泣ける事は

生の尊さを十分に知っている素晴らしい証だ。

だが、そこで我等の主が傷つくのは辛い】


主であるは強いが、脆い。

不安定な存在なのだ。

強く優しく、美しく賢く、人の望む大部分を持ち合わせるのに、

それを支える心はガラスのように傷がつきやすい。

彼女は、人を思いやりすぎる。否、人だけではない。

大切なものの悲しみを敏感に感じ取ってしまう。

彼女には、ハンターの職業が酷なのは分かりきっている。

それでも、元の故郷へと帰るには最も近道なのはハンターである事。

淀みの中にこそ、空間の歪みがあるのだから。

それを吸い込むために主はその中を突き進む。

周囲も、主の優れた能力を埋もれさせる事をしないだろう。

目的を果たす前に壊れてしまわないか………

……我等はただ、主の幸福を願うのみ。




「アニラ、私はこうでもしないと進めないから
…もっと泣く事になると思う。

どんな理由があれ、無用に人を殺したくない。

出来る限り私みたいな悲しい思いをする人を作りたくない。

でも、人殺しをする人が人間じゃないなんて言えないの。

彼等は私と考え方が違うの」


幻影旅団はその最たるものだが、カイトもジンさんも
熟練したプロハンターの大多数は人を手にかけた覚えがある。

私も、自ら手を下した訳ではないが、エマの事件は
ある意味私が引き起こさせた殺人だ。

そう、人が人を殺すというのは、道徳心が伴わければ、
存外簡単にできてしまう。

ただ私はその心を捨てることはできない。

捨てようという気持ちもない。


「私は、私の信じた生きる道を自分で作りたい」


時が来るまで、私はここで精一杯生きると決めたから。

流れ出していた涙も止まり、強い意志を宿した目が、キラキラと輝く。

その瞳はどんな宝石でも適わない美しさと神秘さを感じさせた。


【我が主は我侭だな。さて、次の会場に向おう】

「ええ」


ガラスの様に傷つきやすい主の心。

がしかし、砕け散るのは思いのほか困難なようだ。



空間を切り裂き、人が1人通れるくらいの小さい亀裂が現れる。

は臆することなくそれに飛び込んだ。


残った場所は、血の跡以外、そこで惨劇が在った事を証明
するものは残されていなかった。









+*+*+*








「ねぇ、クラピカ。、大丈夫かな」

は私達よりも強い。大丈夫だよ」


クラピカの慰めにゴンは首を振った。


「ううん。そうじゃないんだ。がさ、心が大丈夫かなって

「心?」

…俺達と別れるとき、死んじゃった受験生を悲しげに見てた。

は…ヒソカと正反対なんだよ。

ヒソカは殺しを楽しんでる。

でも、は殺しをとても悲しんでる。

2人共、俺じゃ敵わないくらい強いのにね」


は、笑ってるのがとても綺麗で可愛いのに、
寂しそうにしてるのはやっぱり綺麗なんだけど、
こっちも寂しくなっちゃうんだ。

親父の事も知ってるみたいだし、ううん、それがなくても
をもっと知りたい。


は人の死を敏感に感じ取るのだろう。

死を知るからこそ強くもなれるし、弱くもなれる」


……私は、だからこそに惹かれているのだろう。

ゴンの言っていた事は気付いていた。

たった数時間前に会った人間に、自分の弱い所は見せたくないと。

それは酷く寂しい。

をもっと知りたい。

もっと一緒にいたい。

そう思ってしまうのは……私の我侭なのだろうか。