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湿原地帯の泥は容赦なく受験者の体力を奪っていく。

霧が濃くなってきた。10m先は視界が届かない。


「ゴン、。もっと前に行こう」

「うん試験官見失うといけないもんね」


ゴンの発言は的はずれというわけでもないが、キルアの
懸念は違う方向であった。


「そんなことよりヒソカから離れた方がいい」


はキルアの考えに賛同するように頷いた。


「今のヒソカは殺しがしたくてウズウズしてる。

この霧に隠れて、かなりの人数を殺るよ」


ずーーとマラソンしてて暇だったのはヒソカには
私の忠告なんか右から左へと流れている。


「なんで、2人ともそんな事わかるの?」

「アレはそういう奴だからよ」

「俺はアイツと同類だからな。ニオイでわかるのさ」

「キルアとヒソカが同類?そんな風には見えないよ?」

「それは俺が猫かぶってるからだよ、そのうちわかるさ」

「ふーーん」


ゴンは納得いったのかいかなかったのか分からない相槌を打って
大きく息を吸った。


「レオリオー!!クラピカー!!キルアとが前に
来たほうがいいてさーーー!!」


張り詰めた緊張感が一気に効力を失った。


「緊張感のない奴らだな―」


後ろからはレオリオの怒鳴り声がかすかに聞こえる。

その台詞を聞く限りレオリオもゴンと似たり寄ったりだ。


「ここまでのんきだと、ある意味才能?」


ゴンとレオリオは強化系か?クラピカは操作系か具現化系で、
キルアは変化系っぽい性格よね。

まあ、その辺も彼らが受かればいつか分かることだ。



霧は次第に一層濃さを増す。

この霧も騙すためにあるようなものに思えてしまう。


「……さて、お仕事しますか」

「場所は分かりますね?」

「後で追いつきます」


一言、サトツと会話してからは霧の中へと身を隠した。


「あれ?キルア。がいないよ?」


少ししてからゴンがの姿が無い事に気がついた。


「あ、ホントだ。どこいったんだ?まぁなら平気だろ」

「どうして?」


ゴンはまた疑問符のつく台詞を言った。

キルアは何のことでも無げにゴンを見ないで答える。


は俺よりも強いかもしれないからさ」


ヒソカの殺気をあんなに簡単に流す奴が弱い訳ないじゃん。




+*+*+*+*






本列から幾らかずれた場所を走る集団があった。


「前方を見失うな」「アレだけが頼りだからな」


すでに騙されている事に、彼等はまだ気がついてない。

前にいた人の頭がポロっともげた。


「ポロ?」


落ちたものをみると。


「イチゴ?!」


ゴゴコォ


突如と地面が盛り上がる。否、地面ではなかった。

それは、亀の甲羅。


「ウワアァァ!!」


正体はキリヒトノセガメ。

背中に生えてる大きなイチゴを人に似せ、
霧に迷い込んだ人間を襲う大型の亀。


「脱落者106名発見。救助開始します」

『了解。ポイント地点は受付地点です』

「了解。

ここにいる受験者の方は失格と見なされました!!

よって受付地点へと戻って頂きます!!」


深呼吸して全員の耳に入るように声を張り上げる。

は腰のバックから折りたたまれている薙刀を取り出した。



「ゴメンネ」




一言の謝罪。

ただ生きるために食事をする。

生物として当たり前の行動。

それでも、人が死ぬのは出来る限り勘弁だった。


ズサアァァ


2匹のキリヒトノセガメは紙を切り裂くように真っ二つに引き裂かれた。

周りの人間はそれをただ憮然と見るだけだった。


「す、すげぇ」「あの細腕にどうしてそんな力が!?」


鍛錬と体の構造の違いよ。


「伐祈羅、"安らかなる鐘引(スリーピングベル)"!

額爾羅、"空間の狭間(スペースホール)"!」


2つの名を呼ぶと、何も無かったはずの場所からぽっかり
とした穴が開いた。


カラァァン カラァァァン

と、その穴から澄んだ鐘の音色が鳴り響く。


その高音の鐘の音色が鼓膜を揺らした途端に脱落者達は意識を失い、
宙に浮かぶ暗い穴に吸い込まれていく。

おそらく、否、間違いなく彼等がこの光景を思いだす事は無い。

そして、その場にはだけが残った。