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光のゲートを抜けると、広大な湿地帯が一面に広がっていた。
「……ここは?」
「ヌメーレ湿原。通称『詐欺のねぐら』
二次試験会場へはここを通って行かねばなりません」
何処もかしこも生物と植物で溢れ返っている。
ここは、死人がかなり出てしまう。
ウイイィィン
階段と湿原の間がシャッターで区切られ、受験者達は
試験官のサトツに目線を戻した。
「この湿原にしかいない珍奇な動物達。
その多くが人間を欺いて食料にしようとする貪欲な
生き物です。十分注意してついてきて下さい。
騙されると死にますよ」
サトツは脅すように忠告を言い放つ。
「おかしな事言うぜ。騙されるのわかってて騙される訳ねーだろ」
レオリオもやっと足を休めて軽口が戻ってきた。
「ウソだ!!そいつはウソをついている!!」
張り上げた動揺を誘う金切り声。
早々にお出ましか。
出口の脇から出てきたのは傷を負った立つのが精一杯といった男。
手は脇を押さえ、片方は貧相な腕を掴んでいる。
「そいつはニセ者だ!!試験官じゃない!!
俺が本当の試験官だ!!」
男が指さす方にはサトツさんが平然と立っている。
予想の範疇だし、コレぐらいじゃ何もする気が起きない。
「ニセ者?!どういう事だ!?」
「じゃあ、こいつは一体……!?」
レオリオにスキンヘッドの294番。
言ったそばから騙されるな。
「コレを見ろ!!」
ザッ
引っ張ったのは先程から掴んでいる貧相な手の猿。
よくぞ都合よく反り返りカールの猿がいたものだ。
「ヌメ―レ湿原に生息する人面猿!!
人面猿は新鮮な人肉を好む。
しかし手足が細長く非常に力が弱い、そこで自ら人
に扮し言葉巧みに人間を湿原に連れ込み他の生き物
と連携して獲物を生け捕りにするんだ!!
そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽
にする気だぞ!!」
うん。言葉巧みなのは認めるよ。
何人か飲み込まれてる奴もいる。
出てくるタイミングも、パフォーマンスも高得点を上げる。
でも、全員がだまされる訳がない。
ヒュッ!!!
幾枚ものトランプが宙を素早く走り抜ける。
サクッ……。
名演説を語っていた男は3枚のトランプが刺さり、倒れた。
反対の方角にいたサトツは、すべてのトランプ
をキャッチしている。
「くっく♣成る程成る程♠」
シャアァァァっと残ったトランプを右手から
左手へと移し変えていくヒソカ。
さっきのトランプは間違い無くコイツのもの。
逃げ出そうとした人面猿も何事でもないと早技で殺してしまう。
「……!!」「あの猿死んだふりを……!?」
「これで決定◆そっちが本物だね」
よく言う。初めから知ってたくせに。
「試験官というのは審査委員界から依頼された
ハンターが無償で任務につくもの。
我々が目指すハンターの端くれともあろう者が
あの程度の攻撃を防げないわけがないからね?」
「だったらこっちに飛ばすのはお門違いだよね、ヒソカ」
突然話に割って入る。持っているのは2枚のハートのトランプ。
先程、一緒に飛ばされてきたらしい。
「だってがずーっと僕を無視してるんだもん◆
暇なのかなって思ってさ♠」
「よく言ったものね。次同じ事したらあんた絶対失格にされるよ。
ま、失格になった方が世の為って考えもあるけど」
シュッとは2枚のトランプをヒソカに投げ返す。
「はいはい◆」
ヒソカはそれをクククと笑いながら受け取った。
敗者となった男と猿が死肉を食べに来た鳥達に見るも
無残な姿へと変えられて行く。
これが自然の摂理。サイクルする空間。
最も自然な風景なのに、それでも死は怖いものだ。
「それではまいりましょうか。二次試験会場へ」
その掛け声と共に又全員走り出す。
受験生311名。ヌメーレ湿原に突入。
