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シルバとの戦いを終え、ホテルに戻ってくる。
全身を覆う気だるさと体の汚れから早く風呂に入り
寝てしまいたい欲に強く駆られた。
ガチャッ
「ただい「さぁ〜〜〜ん!!!!」
ドアを開けたと同時に泣き上戸になっている
エマがに抱きついてきた。
ずしりとかかるエマの体重が傷に鈍痛を与えるがそこは
根性で顔に出させない。
「ど、どぅして勝手にいっちゃったんですかぁ!!
相手はあの冷酷冷淡な暗殺一家ゾルディックですよぉ!!
助けに行きたくても熊男が邪魔して行けないしぃ〜!!」
【俺は熊じゃなくて猪だって何回言わせんだ】
憮然とした表情でビカラは苦情を言った後、歯をむき出す
笑顔でシホを見た。
【お嬢お帰り。よく帰ったな】
「ただ今ビカラ。エマ、私平気だからちょっと離して。
もうボロボロだからお風呂入りたい。その後傷の手当
したいから包帯とか消毒液買ってきてくれない?」
「は、はい!すぐ買ってきますぅ!!」
はっと顔を上げ、シホから体を離す。
そして財布を握って勢いよく飛び出していった。
バタンッ
「ふう、珊底羅(さんてら)」
は小さく薙刀を振って七色の蛇を呼び出した。
【力が必要かえ?】
「ええ。左足にヒビ入ったみたい」
ガードしたけど、さすがに勢い全部殺すのは無理だった。
ズボン下の太ももは腫れあがっていることだろう。
【今楽にしてやろう】
珊底羅はそう言っての足をつま先から飲み込み、
柔らかい液体が足を覆い尽くした。
"癒しの体(ホーリーポーチ)"
珊底羅の体内に飲み込まれたものを通常の何十倍のスピードで治す
ことができる。使用回数は1日5回まで。心肺機能停止3時間以内
なら回復の可能性もある。ただし、死亡した人を生き返らせるような
場合は1週間、癒しの体(ホーリーポーチ)は使用不可となる。
【軽く5分もあれば完治できるじゃろ】
「エマが戻ってくるまでに治ればいいの。
次は安底羅(あんてら)、迷企羅(めきら)」
開きっぱなしの深い闇の穴からはツインテールの少女と
幼い少年が飛び出してくる。
【はーい!ご主人様そんな汚い格好じゃダメですよ!?
もう!顔に血糊つけてるなんてナンセンスです!】
ああ、確かにそれもそうだろう。
【、痛くないのか?】
「心配させてごめん。今サンテラが治してくれてるから平気」
メキラが不安そうに自分を見上げるのでサンテラに治療
してもらっていることを強調してなだめる。
【やる事はわかってます。これの修理ですね?】
アンテラはベットに寝かされた薙刀を指差した。
「正解。刃零れが激しいの」
【でも私にかかれば簡単です!まず鉄出してメキラ!】
【うん!】
メキラは光の球を口から飛ばして、直径5cmほどの鉄球
を出現させた。
"無限に広がる口(ノンワイドホール)"
メキラの吐き出した光は口の奥と空間的に直結し、幅・重量
制限なしに食べることが出来る。食べるとは言っても消化は
しないし、出し入れは自由である。ただし、仕舞う物が100
を越えると一番古いものを順番に吐き出してしまう。
数があっても箱などで仕舞えば箱単位で1と数える。
【サンクス!後はこっちの力の見せ所ね】
アンテラはそれを薙刀に触れさせてふっと息を吹きかけた。
すると鉄と鉄が溶け合わさり、足りない部分である刃零れ
を補うよう、そちらに流れていく。
"紛れ込む風(ミステリーウィンド)"
空気中に紛れ込むことが出来、原子レベルでの物質の
構築が可能。ただし、構築範囲はアンテラから半径5m
以内。構築物質もそこにあるものしか使えない。
【出来上がり!どうですご主人様?刃は前よりも
薄く、切れ味UPを狙ってみましたけど】
は薙刀を持ち上げ、すすっと指を刃に沿わせた。
自分の顔が映るほど磨かれた面。弧を描く様と鋭利さ。
すべて一級職人並みの技に匹敵する。
「ええ、問題ないわ。ありがとアンテラにメキラ」
【それよりご主人様は早く湯浴みしてきて下さい。
そんなんじゃカイト様の所にも行けませんよ】
【こちらも終わりじゃ。ゆるりと湯に浸かってくるがいい】
「そうだね。メキラ、服を一着出しておいて。
そしたら元に戻っていいよ」
は穴を開けておいてからバスルームに入った。
【あーあ、ご主人様ったら本当に強くなっちゃって…ちょっと寂しー】
【強くなるのは良い事だろ。は誰も殺したくないんだから
殺さないで済むだけの強さがほしい。だから俺達と契約したんだ】
【そんなのちびっ子のあんたに言われなくても分かってるわよ!】
アンテラは頬を膨らませてメキラの額を突いた。
【アンテラのバーカ!突かなくてもいいじゃんか!!】
【ふん!生意気言うからよ!!】
他愛ない喧嘩をしながら年少組みは穴へ消え、年長組みはそれを
苦笑で見守ってから自分も穴へ消えた。
穴が消えてからは、あの騒がしさが嘘のように静寂に支配された。
