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シルバは片手でを制し、懐から六芒星が書かれた
卵型の無線機を取り出した。


、お前の勝ちだ」

「……………どういうことだ?」


胡乱げな目を向けるにシルバが小さく苦笑した。


「この無線機が鳴るのは暗殺終了の合図。

俺の家族がお前を殺すよう依頼した奴を暗殺した。
これで仕事をする義務はなくなった」


これを狙っていたんじゃないのかとシルバが聞くが、
はすぐさまに首を振った。


「私がしたのはあの馬鹿社長の財産を破綻させる裏工作。

朝日が昇るころにはパソコン管理された資産は全部オシャカ
になっているはず」


がそう説明していると、東の空が薄く照り、
薄藍の雲が緋色の光に染まっていた。

一気に気の抜け、緊張の糸を緩ませる。


「そうか、あの社長殺されたのか」

「不満か?」


シルバの更なる問いかけには日の出を眺めながら答える。


「そうね、これから自分がどれだけ愚かなことしたのか
思い知らせてやろうって思ってたから、それができなく
なったのは残念よ」


口調も元に戻り、闘争心は嘘のように消え去った。

お互い、これ以上戦うことにメリットはない。

死闘の閉幕はとてもあっけない気がしてならなかった。


「ちなみに、私の仕事いくらで引き受けた?」

「前金20億、成功報酬に100億だ。安かったな」

「私にとっては安い値段じゃないわよ」


金銭感覚が違いすぎるのね。

それだけの金があれば野球チームもう1コ作れる。

とてもじゃないけど人を殺す為にそんな大金を
払う神経を理解できそうにない。

前髪を掻き揚げると、額にいつの間にか傷を作って
いたらしく、血で固まっている部分があって
手ぐしが通らなかった。


「ふう、私は帰るわ。心配して待ってくれる人もいるし。

社長が死んだなら裁判の進行も大きく変わるだろうしね。

その前に美味しいものでも食べていこうかな。

祝、ゾルディック家当主との死闘生還!でさ」


「のんきだな。また命を狙われる可能性は高いのに
まだ仕事をするつもりか?」

「ええ、そのつもりよ。どうやったところで私は普通には
生きられないだろうから。これあげるわ」


はボロボロになったコートから一枚のカードを
取り出してシルバに投げた。


「私の名刺。探しものに関してなら初回は3割引で請け負うわ」


シルバは何も言わないでその名刺を受け取り、代わりに
自分もに名刺ほどのカードを投げ返した。


「必要ないだろうが、俺も3割引で請け負おう。

暇な時には家に来てもいいぞ。俺の鍛錬に付き合うならな」


「私にこれ以上命を縮めろと!?
言っておくけどさっきのだって
いっぱいいっぱいだったのよ!?」

「俺と真っ向勝負する図太い神経してよく言うな」

「私は太く長く生きるつもりなの。売られた喧嘩は
デメリットが大きすぎない限りきっちり買うわ!」


思いっきり言い切ったを見て、シルバはまた
口元を緩めた。

こいつは、俺に珍しい感情を出させるのが本当に上手い。

ここまで他人と話すのも久しぶりだ。


「じゃあね、ゾルディックさん」

「シルバだ。ゾルディック家は大家族なんでな。ファースト
ネームで呼んでおけ」


はそれに返事を返さないで、一回だけ手を振って走り去った。

大地を蹴り上げて舞った砂埃は、がいなくなったのを
惜しむかのように長く空中を彷徨っていた。



「あれで暗殺業ができるなら息子の嫁にしたかったな」


到底できそうにもないのを知っていての独白に、
シルバは自分で笑ってしまいそうになった。