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とシルバは10mほどの間合いを空けて対峙し直した。
シルバが汗をかいているのは服の湿り具合からも予想は
つくが、体力はまだ残っているように見えた。
「時間稼ぎは終ったのか?」
「ああ、これからはちゃんと私自身がお相手する」
残り、54分。
フッ
軽い空気の流れ。
ギンッ
重い拳の感触が柄を伝っての手にまで届く。
その重量の流れを反らせ、蹴りを鳩尾に食らわせる。
ゴドオォッ
っ硬い!!筋肉の壁とはまさにこれのことだ!!
ザザッ
は蹴りを入れてから一旦の間合いをとる。
「やる気のない蹴りだな」
パンパンと埃を払ってシルバが立ち上がる。
モロ急所に入ったはずなのだが、あまり攻撃が通った
ようには感じられない。
「そうか?なら私の鍛錬不足だ」
「意味が違う。殺る気がまったく感じられないと言っているんだ」
「ご名答」
口に含ませるだけの回答。
刹那には攻撃を再開した。
おかしなターゲットだ。
シルバは心中でため息を吐いた。
ダブルハンターの。
見た目は顔立ちの整ったただの小娘だが、その内に秘めた
オーラの量はもしかしたら俺や親父よりも上かもしれない。
ドッッ
「っ!」
やっと一撃。しかし太ももに掠る程度。
流は一流といって申し分ない。先ほどの念獣もイイ出来
だったし…この歳で二つ星は伊達じゃないといった所か。
その間には薙刀の切っ先で突きのラッシュを浴びせる。
シルバは避けると同時に堅を張るが、精孔の半分が
閉まっているようなオーラ量しか練れなかった。
ザシュッ
薙刀がシルバの脇を通過した。
鮮血が飛び、砂と岩の地面に黒いシミを作る。
「引くか?」
「つまらない冗談だ」
念で止血し、手に飛んできた自分の血を拭った。
仕事で自分の血を見るのは久々だな。
しかし、さっきのはの念能力か?
オーラの配分が先ほどから乱れてしまう。
先ほどの時間稼ぎはこのための下準備ということか。
それでも今は普通に使えるところを見ると、持続タイプでは
なく、瞬間的に発動させるタイプだな。
面白い。
シルバは気づいているのだろうか。
自分が鋭い目をしたまま口元を緩め、笑っていることに。
仕事――暗殺としてでなく、
好敵手を見つけ、
ただ戦うこと自体を楽しんでいるような、
そんな顔をしていることに。
残り時間は何分だろう。
腕時計はとうに壊れた。
この人本気で強い!体術ならジンさんと張れる!!
ダメージは辛い箇所がいくつかあるが、動かせないほどではない。
的確に要所要所で"あべこべの手(リバースハンド)"
を使えば私も勝機が見えてくる。
周で固めた柄の先でシルバの攻撃を弾く。
シルバはそれを見越して柄の先を握り、力で捻り上げる。
その隙に念の弾を飛ばすが、はリバースハンドで
その弾を弱め、シルバに弾き返すが、シルバも
それをあさっての方向に弾いてしまう。
決定的だな。は除念…いや他人の念を操れる。
操作か、具現…はたまた特質。
どちらにせよ厄介なことに変わりない。
はまっすぐにシルバから金色の目を離さない。
その目は覚悟と決意を宿し、爛々と美しく輝いている。
しかし、妙だな。
これほどの手練がどうしてこんなにも殺気が薄い?
俺を殺す気はないと断言してもいい。
戦いと殺しをイコールで結べない…そんな戦い方だ。
どちらも引くことのない戦いに殺しの選択肢を
入れない愚かさは呆れと失笑を誘う。
甘い、やはり子どもだな。
それでもこの俺がまだ殺せていない。
、誇れ。お前が初めてだ。
俺がターゲットを殺すのが惜しいと思ったのはな。
ピピピピピピピピピ
狂気の舞台に、終わりの音が岩々に反射した。
