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「真達羅(シンダラ)、右方向に12kmお願い」
【はい分かりました】
ホテルの屋上に立つの目の前には目の冴えるような白銀の鳳がいる。
その背に飛び乗り、都会特有の星の少ない夜空を飛び立った。
「随分私も評価されたものよね、こんな小娘相手に世界でも有名な
暗殺一家ゾルディック当主が相手をするなんて」
エマは、きっとそのことを知っていた。
だから念能力を使ってまで私の側にいた。
クビラの情報によると、エマはあの公害病に罹っていた母と弟がいる。
ちょっと国からの資本金が足らなかったから私のお金使って
ワクチン作って、それを使用した人達らしい。
「ごめんねぇママ。でも恩人見殺しに出来ないよぉ」
私が風呂に入っている間にかけられた電話口の相手に、
エマはそう言って説得していたのを、私は聞いてしまった。
「アニラ使って逃げればエマが狙われるわ。だから、時間を稼ぐ」
それから調べさせたところ、暗殺依頼人は公害の元に
なった工場持ちの会社社長で確定。
とすれば、やることは決まっている。
【ご主人、あの会社ネットワーク操作完了したぜ。
後2時間であらゆる金銭と資本元は奴の手から離れる。
そうすれば金は払えねえ】
「ありがとクビラ」
暗殺に限らず、仕事は大概の場合、金銭報酬で成り立つ。
その報酬が払えなくなったと知れば、
プロであるゾルディックは引くはずだ。
「リミットは朝日までの残り2時間」
さあ、幕を開けろ。
逃げられない土壇場ほど闘争心が燃え盛る舞台はない。
*
閑散とした岩しかない空間。
そこに銀色の髪と目をした男性と、その男性から離れた
位置にインダラがいた。
シンダラから下りて駆けてきた足を止め、は銀色の
男性、名はシルバ=ゾルディックと対面した。
「我侭を聞いていただき感謝します」
「仕事が完遂できればどこでも問題ない」
刹那、シルバが足音無くの胸目掛けて腕を振る。
は紙一重でかわし、裂けたコートの一部が宙を舞った。
「招社羅(ショウトラ)!!」
薙刀を横に大きく振り、は叫んだ。
「焔!」
ショウトラはの掛け声に従って飛び出し、
体の熱を上げ、シルバにタックルする。
招社羅の能力は"悪夢への案内(ガイトラッシュ)"
自身の体の熱を下から極・雹・寒・冷・熱・炎・焔・業の
ランク付けにより絶対零度から1万度まで変えられる。
制限時間は各ランク10分ずつ。
「具現化系か」
この状態でも冷静なシルバの勘違いには心の中で笑んだ。
焔は鉄くらいなら熔かせる程度の温度。あの人の周りは
真夏の炎天下では勝負にならない程の温度に上がっている。
攻撃が当たらなくても余熱だけで体力、気力共に低下が
激しいはずだ。
「冷!」
ショウトラは単語に反応して毛皮を赤から薄い青へと
変化させ、温度差でシルバを追い詰めていく。
「…話以上だな。金額と割が合っていない」
「お褒めの言葉として受け取っておきます。もう少し彼と
遊んで下さい。そうすれば私の勝ちです」
クビラからの報告から現在38分時間がたった。
あの暗殺と念の達人の間合いに入らずにせめて1時間。
それ以上ショウトラを酷使するのはショウトラ自身に
負担がかかりすぎる。
それから1時間を逃げ切るのは私自身。
ぎゅっと胸元を掴んだ。
私がどこまでできるかは、そこで決まる。
59分……60分。
腕時計の長針が元の位置に戻る。
「招社羅戻れ!」
【しかし】
「続きは私がする。それ以上はお前自身が危険だ。戻れ」
反論を許さない強い口調。
の感情が高ぶっているのは明白だ。
渋々と闇の穴に戻る招社羅が、最後に一言残した。
【死ぬのは許さない】
「わかっている」
今まででも有数の命の危険だからな。
