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「エマ=トラネットさんですか」
名刺に書かれた名前を読み上げて、はエマの顔を見た。
そばかすの散る頬と明るい赤髪は緩やかにカーブしていて、
童話の赤毛のアンを思い出させる顔をエマはしていた。
それよりも、高校の先輩に似ている気がしなくもないが、
今はどこかに閉っておこう。
「はいそうでぇす。今年からフリー記者をしてるんですけどぉ、
是非今話題に上るさんを取材したいんでぇす!!」
「申し訳ありませんが、オーナーは顔出しを控えていまして」
後ろに控えているボドーはじろりとエマを睨んだ。
先ほどの記事の苛立ちを思い出してしまうのだろう。
としても取材を受ける気はないので早々に帰ってもらいたかった。
「カメラ使いませぇん!私は人物像が憶測だけに留まる
さんを書き留めたいんですぅ!」
ちょっと伸びる言葉は緊張感を欠落させはするが、
彼女が本気であるのは目を見ればなんとなく分かる。
しかし、にとって不必要に騒がれるのは疲れるだけだ。
は心を鬼にしてエマを見据えた。
「私個人に関する取材はお断りいたします。ブラック
パンサーに関してならどうぞ広報課へ」
と、いう会話して半ば追い出ししたのが1週間前。
次の日、オフィスに行こうとすれば?
「取材させてくれるまでひっつきますぅ」
張り込みされていた。
そして冒頭へと戻る。
「いい加減にしないとストーカーで警察に連絡するよ!?」
「これは人々の知る権利で守られますぅ!」
「プライバシーを守る権利はこっちにある!!」
「数十分くらい話質問するだけじゃないですかぁ!!」
こっちがああ言えば、そっちはこう返す。
しかし、とてプロのハンター。
一般人相手なら逃げも隠れもお手の物なのだが…。
「どうして能力者が記者なんて仕事就いてるのよ!?」
「フフフゥ、12の頃川で溺れて精孔開いちゃったんですよぉ。
幸い私のグランパがプロハンターで、念を覚えて事なきを
得ましたけどねぇ」
うん、中々良くある臨死体験だ。
本当におじいさんが念能力者で良かったね。
「私の"溺れる酒池(オルジャ)"からはぁそう簡単に
逃げられませんよぉ」
"溺れる酒池(オルジャ)"変化系能力
液体状のオーラをかぶった対象者は使い手であるエマから半径
15m外に出ると異様な酒臭さに襲われる。効果はエマの
作ったルールを守らない限り続く。
「どこで私がお酒に弱いことを知ったの?」
「どこのパーティーでも色仕掛けとお酒を
断ってるのは有名な話ですぅ」
攻撃力も殺傷力も皆無な能力だから持続力が半端じゃくいい!
15m以上出ると匂いだけで頭がぼやけてくるから
もう1週間エマと行動を共にしている。
こんな情けないことで"あべこべの手(リバースハンド)"
使いたくないしなー。
"あべこべの手(リバースハンド)"操作+特質系能力
操作対象は相手のオーラ。使い手であるの目で見える範囲
にいる限り、対象者のオーラの減増、解除を操れる。
しかし、使用にあたっては使用中に対象者に手で触れているか、
事前に相手の念で攻撃を受けなくてはならない。
また、念によって受けたのダメージが大きければ大きいほど
操れる増減幅は広くなる。
以前ヒソカのバンジーガムを剥がしたのはこの能力だ。
ヒソカ以外にも旅団ではウボー、クロロ、シズク、シャルナーク、
パクノダ、フェイタン、フランクリン、マチはリバースハンド
使用可能者となっている。
ただ手錠の鍵だけ狙ってた訳じゃない証拠とも言えよう。
*+*+*
「という訳で、今そっちに行けないから買出しは自分でしてね」
『おいおい、あんまり能力の出し惜しみしても仕方ないだろ?』
ただ今エマは同じホテルの部屋で宿泊中で、お風呂に入っている。
その間にはカイトの電話番号をプッシュし、定期的にしていた
カキン国奥地への買出し届けはできそうにないと知らせる。
「ん〜そうだけど、取材の事さえなければエマって面白いのよね」
人としては嫌いじゃないの。
でも、これ以上悪目立ちも控えたいのも本音。
『ったく、好きにしろ。でも1ヶ月以内にはこっち顔見せに来い。
無理なら俺が行く』
「了解。じゃあね」
電子音に変換された声でもカイトが呆れているのがわかる。
心中で平謝りし、最後の挨拶をしてからは電源を切ったら
丁度良くエマがお風呂から上がってきた。
「彼氏さんですかぁ?」
「そうよ。誰かさんのせいで会えないからね」
「にゃはは、だったら取材応じてくれればすぐにでも
"オルジャ"を解除できますよぉ」
「ここまでくれば意地よ」
「残念ですぅ」
薄々気づいていた。
取材はただの口実であることに。
