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「密着取材させて下さぁい!!」
「お断りです」
何回このやり取りを繰り返したのだろう。
は本日4回目のため息を吐く。
発端は、先月の雑誌記事だったはずだ。
+*+*
「冗談書くのもほどほどにしろよ!」
「まったくだ。うちのオーナーが不正取引するはずないだろうが!」
とあるビルのオフィスから憤怒と苛立ちの声が沸き起こっていた。
このオフィスは野球チーム"ブラックパンサー" ――通称BP、もしくは
ブラパン――に関連するすべてを担うサラリーマン、サラリーウーマン
達が働いている。
彼らが怒気を向けるのは、自分達のトップであり、チームオーナー
…本名に関しての悪評記事に対してである。
「チーム買取に関しての不正、ファルシラウサギの保護ミス、
この間の公害病について…etcよくもまぁコレだけ想像力を
働かせられるよねー」
そして当事者のは……あまり慌ててなかった。どちらかと
言うとおかしな程落ち着いているようにも感じられる。
「オーナー何でそんな落ち着いてるんですか!
名誉毀損で裁判起こしましょうよ!!」
第一秘書にして実質的オフィスリーダーのボドー=ノイマン
がのオフィステーブルをバンバン叩くので折角入れて
もらった紅茶がこぼれない様にカップを持ち上げた。
「平気よ。物的証拠も言論事実もない。これじゃピイピイ
言えても何か行動にする事はできない。それに、この2つは
随分強引に進めてたからこれくらいは覚悟してたわ」
プロハンター。
史上最速、最年少で16歳にシングルハンター、18歳で
ダブルハンターの称号を得る。
主な功績にスポンサー会社の倒産で解散しかけた野球チーム
ブラックパンサーの買取り――このチームは今年リーグ優勝
を飾っている。
絶滅したと思われていたファルシラウサギの再発見と保護の
並列作業で密輸組織を壊滅。
近年ヨルビアン大陸沿岸地域で問題になっていた伝染病が
公害病であった事と新抗体の発見によりワクチン制作に成功。
今現在公害の元となった工場と国への損害賠償裁判に
助力している。
密猟者の年間捕縛数世界ランキング4位。
多岐に渡る分野で活躍を見せる彼女であるが、その功績には
権利を酷使する強引な早期解決に疑問と批判が多く出ている。
そして野球チームオーナにも関わらずマスコミ関係には一切
姿を見せない。それは後ろめたい何かを持っているから
ではないかと我々はにらんでいる。
記事を読み終えると、はそれを机に放り投げた。
「そりゃ野球チームオーナーとは言っても、皆に任せっきりの
名ばかりオーナー。しかも本業がハンターなんだから簡単に
顔を晒す訳ないでしょうに」
本音言えば、こっちの世界でも野球したくてチーム
買っちゃったようなものだし。
もうインフレじゃないかってくらいお金溜まったから
使い道が欲しかったのも大きいけどさ。
他の件についても必要だと思ったから非難を承知で早期解決の
道を選んだんだから覚悟は最初からできていた。
「こうなったらボドー、貴方がオーナーしない?
皆もこんな子供の下で働くのも嫌でしょ」
としてはより強い選手と対戦できる場所があれば
いいのでもうオーナーである必要はない。
18の女が一番上じゃ、カッコつかないって思ってもしょうがない
と、は本気で思っていたのだが、ボドーをはじめ、オフィス
チーム全員がを"何アホなこと言ってんだこの人は"
という目で見てきた。
「どうしてそんな寝ぼけた事言えるんですか。俺達はBPに
惚れこんでいるのと、上司が貴女だからここにいるんですよ」
ボドーの明るいレモンイエローの短髪は若干普段より輝きが
鈍っている気がした。
「ボドーさんの言うとおりです」
「だからこんな記事に怒ってるんですよ。
チームとオーナーを貶してんですから!」
ドゴオッ
怒りを込めて雑誌を丸め、ゴミ箱に向けて全力投球。
元投手なだけあって素晴らしい肩で、ゴミ箱を凹ませた。
「レフ、ゴミ箱代金は給料から差し引くからね」
あ、レフ落ち込んだ。
は苦笑するように目を細め、口元を緩ませた。
自分を分かってくれる人が、この世界にもたくさんできた。
それは嬉しいのだが、どこか後ろめたい気持ちになる。
いつかは消える存在の自分が、ここまで彼等の心の中に
入り込んでもいいのだろうかと……。
最も、悩んだところで彼等が好きな気持ちは変えられないだろうが。
「皆ありがと。そう言ってもらえて嬉しいよ」
は社員全員に綺麗に微笑んだ。
この笑顔が見れるだけで、この職場にいて良かった
社員がと思っていると。
バアァン
豪快にドアが開いた。
「プロハンター!貴女に密着取材を申し込み
に来ましたぁ!!」
これが、雑誌記者エマ=トラネットとの出会いだった。
