17
暗いを通り越した闇色の世界。
私が閉じ込められていたその場所と同じ感覚を与えられる。
「やっと来たのか。新しい時渡り」
でも、そこには私よりも先にいたらしい30代後半の男性がいた。
腰まである真紅の髪と、銀をはめ込んだような眼。
それは亡き母と同じ色彩を持つ男性だった。
そして、あの時の夢と同じテノールの声を持っていた。
「これはまた夢の中ですか?ご先祖様」
確信を持っては男性にそう聞いた。
普通日本人がこんな派手な色彩を持つのはありえない。
しかし、母の一族、家は時折この色を持つものが生まれる。
私の黒髪緑目はお父さんからの遺伝だけどね。
「大まかに言ってしまえばそうだ。思ったより話が早そうで
嬉しいぞ。俺は源十郎、死んだ時は元禄3年だった。
お前の名はなんと言う?」
「です。ということは約300年前の方ですね」
江戸時代の人なら、源十郎さんは幽霊ってこと?
足のあるなしは幽霊の判断基準にはならないんだ。
私が見てきたのは8割は足なしだったけどな。
「うむ、勉学を怠ってないとは感心感心。の前、紗耶って
奴は"んな元号知るか〜!!"と叫んでいたぞ」
カラカラ笑う源十郎とは反対には恥ずかしそうに
頬を赤らめた。
「それ、母です」
一般知識としては必要ないだろうけど、ご先祖様に
向かって怒鳴るのはどうかと思うよ母さん。
…っていうか、母さん貴方、時渡りだったの?
私まったくそんなこと知らなかったよ!?
そりゃ3歳の娘にそんな話したところで何にも理解
できなかっただろうけど。
「そうかそうか。全部が親戚だから顔では分からん。
おっと、話が反れたな。言ってしまえば、お前さんがあまり
にも見ていられなかったからちょっと教育するために
魂に語りかけさせてもらっている」
え?私そんなに頼りないことしてたの?
そりゃ、何にも知らないで異世界に飛び込んだんだから、
見っとも無いことたくさんしただろうけど……
ま、今は話を聞いていよう。
「この間の夢も、貴方が見せたものですか?」
「其の通り。あれはお前さんと共鳴している魂の今の世界だ。
この空間は普通、生まれもった体は通れない。
通ったとしても、元の世界に帰ることは無理だ」
この空間に慣れているのか、がその場に留まるの
が精一杯の中、源十郎は胡坐を宙に浮きながらかいている。
「しかし、俺もも今は魂だけの存在で、しかも魂のほんの
一部分であるにすぎない。魂と魂は呼び合うからこの闇の中でも
道を間違えることはない。
魂の分裂とその一部からの増幅。
そして、時渡りの体への混入。
これができる証がの赤髪銀眼だった。
そしてそいつ等が本来、時渡りとなるはずなんだ。
時渡りをしている間、本体である魂の大元はこちらとは
関係なしに生活しているよ」
魂の分裂と増幅?
……魂が細胞分裂と同じことができるってこと?
それでもって、自分の生まれた体とは違う体に憑依できる。
この3つができることが時渡りになる資格を持って、
その資格の証が母さんや源十郎さんのような赤髪と銀目
のはずだったと。
だから、赤髪銀目の人は本家から大切にされたんだ。
「つまり、私は生まれた世界から消えたのではなく、
魂の一部がどうしてか別れてしまった。
そしてこの空間に迷い込んで、いつの間にか時渡りの体に
入り込み、異世界に移った、と言う訳ですか?」
「正解だ。その世界で体に変化を感じなかったか?
身体能力はその世界での最高の部類に属せるように
なっているし、言語の不自由もないはずだ」
源十郎の言うとおりであると、は前々から気づいていた。
身体能力のUPは重力でも違うのかと決め付けていたが、
英語すら苦手の部類だったのに知らない言語を操り、
すらすらと会話できる。
恐らく、ルルカ文字のもその辺が関係しているだろう。
「じゃあ、家族も友人も、心配かけてないんですね?」
「ああ。ただ普通に生活をしているだろう。
の家でも時渡りを知る奴は家長とそれに近い者
だけのはずだし、まさかお前さんが時渡りになるとは
考えてないだろう」
源十郎のその言葉にはほっと安心の吐息を吐いた。
そうか、ならこの世界で生活できる。
皆笑っていた。
それだけでも、救いになる。
「、お前さんは歴代の時渡りの中でも特に異質な存在だ。
本来は俺と同じ色を持つものでないとこの空間に入った途端に
魂は潰され、現世に残った魄は死んでしまう」
源十郎は長い髪を梳きながらそう説明した。
「現にはこの空間で道に迷ったしな。"全"が見つけ
なかったらずっとあのままだっただろう」
「"全"……あの門と一緒にいる存在ですか?」
「だろうな。あれは時渡りでも人によって姿を変える。
ある者は閻魔に見え、ある者は菩薩に見え、ある者は
切支丹の神に見えたらしい」
すべてが想像によって作られた、遠い存在。
「だから私は"真理の門"に見えたのか」
あの時は気づかなかったが、あれは鋼の錬金術師という
漫画に出てくる真理と酷似していた。
私はあの漫画が大好きだったからその影響を受けていたのだろう。
あの真理というものの描き方が絶妙で大好きだったから。
源十郎は流れるように話を続けていく。
