#18
は"世界"や"全"と呼ばれるものの解説に耳を傾けていた。
「不安定であり、変わらない全ての根源。
故に"全"と俺は呼ぶ。
"全"は時渡りが空間を渡る時の港のようなもの。
"全"より出発し、事を終えれば"全"へと帰る。
"全"に力を借り、否、"全"が時渡りの力を借りるんだな。
"全"はすべてであるが故に、あの場から動けない。
だから時渡りは世界の調律の役目を負った。
時間や空間とて消耗品。
使えば古くなり、精度が落ちたり、使えぬようになったりしたの
を直すのが時渡りの役目だ。
自身の一部を切り離し、時渡りの体へと乗り移り、
調律を終えるまでその世界にて生きる。
この体はその世界にいるだけで調律をしてしまう。
調律期間はまちまちで何とも言えん。
3日で終る時もあれば、100年経っても終らぬ時もある」
「随分日数に差があるのですね」
「俺の体験上の話だから確かだ。その100年以上かかって
終えて本体に戻ろうとしたら本体の俺は死んでいた。
そのまま本体負って死ぬのもなんだからずっと時渡りの
助けをしている」
……確かに100年も経ったら普通死んでるわね。
「時渡りとなる者はその事を本能に近い場所で知っているはずだが
……、お前さんは厳密には時渡りではないのかもしれぬ」
源十郎は顎に手をあてて考え事をする格好をして見せた。
「…それは、この色彩という意味でですか?」
の確信した問いかけに源十郎は苦もなく頷いた。
「が言うに約300年。両手の指数よりも時渡りとなった
子孫を見守ってきた。
それでもに会う間では黒髪で金目の時渡りなんぞ
みた事はなかった。これほど時渡りの知識のない
奴も初めてだ」
どこか貶されている感もなくはないが、は黙って
話に耳を傾け続けた。
「それでも、今私が時渡りの体に入っている事は事実ですよね?」
「それは間違いない。体は女が入れば女になるし、男が入れば
男になるが、それでもその纏う雰囲気は変わる事はない」
源十郎はぽんっと膝を叩いた。
「ま、その辺は今考えてもどうにもならん。
時渡りの仕事に代わりはないのだからな。
俺はにある程度の知識を与える為だけに来た。
男ができてもこの世界にあることを不安に思ってちゃあ
不憫だったのでな」
「…っな!見てるんですか!?」
カイトとの関係を知られては耳の先まで真っ赤にした。
「時々だけだ。いいじゃないか、あれは女を尊重して守れる男だ。
獣共もなんだかんだで認めているようだしな。何、時渡りは20年
30年が当たり前の仕事だ。思う存分仲良くやれ」
ニヤニヤして源十郎はそう言った。
は熱い頬を押さえて、「はい」と小さく言った。
一番心配だった生まれた世界は何の問題もないと知り、
そして、時間の不安定は同じだが、それでもあの世界にいる
意味を見つけられたのはにとって大きな収穫だった。
「源十郎さん色々ありがとうございます」
「また大変だったら話くらいは聞いてやろう。
……獣共をよろしくな。俺はのようには
あいつ等をかまってやれなかった」
最後、恥じるようにそう言った源十郎。
そこで、は目が覚めた。
「サンテラ」
薙刀の切っ先で描いた線通りに空間が開き、
七色の蛇がの体にからみついた。
【どうしたのじゃ、?】
「確かに、イイ男だったよ」
ご先祖にあんな人がいたのはちょっと嬉しかった。
「貴方達によろしくって、源十郎さん言ってたよ」
その名を告げると、サンテラは眼を潤ませた。
【…そうか、あの男、どこまでも義理堅き者よ】
世界は、無数に存在し、私はその維持を任された一族の末裔。
だから、自分を保ったまま、
この世界で生きていく。
