#15










しとしとと、時雨の降る森。

静けさに覆われてる場所に一軒の家が建っている。

それは、の家だ。


シャラァン

その家に金属音が鳴ると、達はその家の中に存在した。


「やーっと帰ってこれた」


ぐいーっと背伸びし、身をベットの上に投げ出した。


、A級首相手に1人で喧嘩売るなんて何を考えてるんだ!!
今、お前が生きてるのはある意味奇跡だぞ!!」


カイトは乱暴に椅子に座り、に向かって怒鳴った。


「だからごめんって。それより会場にいた人無事だった?」


そう、まず確かめたいのはそのことだった。

まずカイトがしたのはの送った学会出席者の安否確認。

旅団はの足枷として、会場の人間の安全を示唆したが、
は、会場の人間の絶対的安全を信じていなかった。

興味がに移ったからといって、当初の宝を
諦めるか、それは疑問だった。


「誰一人怪我人すらいない。翡翠髑髏も古文板も無事だ。
サトツって人がその場を収めて、会場の方はテロ事件
として片付けてある」


「じゃあ良かった」

「良かったじゃない!」


バアァン


カイトはテーブルを殴り、怒気をに向け、ビクリと肩をすぼめた。

「相手は人死をなんとも思わない連中だ。
惚れた女が連れ去られて、すぐに助けにいけなくて、
どれだけ俺が辛かったか、分かってるのか!?」


は返す言葉もなく、っぐっと押し黙るしかなかった。


バサラもアニラもハイラもカイトを止めようとはしない。

彼の気持ちが痛いほどわかり、共感しているのだろう。

それでも、カイトの様子が怖いのか、邪魔しては悪いと
思ったのか、3人は静かに部屋から出て行った。


は椅子に腰掛けて大人しくそれを聞きながら視線を
俯かせていると、カイトは腕にを抱いた。


優しく触れ、愛しく思うことを直に伝えるかのように。

それは、クロロから感じた支配しようする威圧と、
それに抗う圧迫はまったくなかった。


「もっと、自分を気遣ってくれ」


頼むように、カイトはそう声を絞り出した。


「本当は、故郷にだって戻ってほしくないんだ。

それ以上に、死んでいなくなるのはやめてくれ。

失いたくない。

いなくならないでくれ」



……あ、同じだ。


はゆっくり、恐る恐る自分の両腕をカイトに回した。

答えは難しくて、でも簡単なものだったんだ。


「あのね、私初恋の人に、交通事故で死なれちゃったの」


泣き喚いて、神でも悪魔でもいいからあの人を返してと願った。

両親が死んだときと同じように。

でも、願いは絶対届かないと、知っていた。

死とは、もう2度と会えないからこそ、悲しいのだと。


「本当はあの人への恋を忘れられるまで誰とも恋しないって思ってた。

でもきっと、一生あの人を忘れられない。

それだけ好きだったし、死なれて悲しかったから」


私の中で、記憶として生き続ける太陽のような人。

それは、過去になっても、片時も離れないのだろう。


「実は、クロロにキスされちゃったんだけど、すっごく嫌だったの。

その後、その初恋の人と……カイト、貴方だったら許せるって思った」



ピクリと、カイトの肩が動いたのが分かった。

ドクドクと心臓の鼓動が早まる。


もし、元の世界に私が必要なくて、この世界にいなくては
ならないなら、

私は、この世界でこの人を愛したい。


「前の人忘れられないんじゃふたまたっぽいけど、
そんな私でも、まだいい?」


の問いかけは、カイトからの触れるようなキスで答えられた。


「いい。だから、それでいい」


キスの後、耳元で囁かれ、親友が彼氏が出来た時、
あんなに嬉しそうな顔をしていたのが良く分かった。


幸せ。

それをいっぱいに感じていた。







【カイトに主ちゃんとられた〜!】

【泣くな波夷羅。気持ちは皆同じだ】


アニラの衣を掴んで涙と鼻水を拭くハイラの頭をアニラは撫でた。


【ったく、摩虎羅のじじいがカイトを唆(そそのか)すからこうなったんだ。
悪い虫が付く前にまだマシな奴つかせたほうがいいだと?


バサラの吐き捨てるような言葉に、アニラは観念
したような嘆息をした。


【主が慕い人と認めたならば、我らはそれに従わねばならぬ。
あれほど気狂いのごとく主を探し出す奴ならば、主をむげに
扱うことだけはしないだろう】


我ら守護する獣達が願うは主の延命と幸福。


【主を泣かせた時に、恨みを返せばいい。
今はそれで納得するべきだ】

【…それで納得できるの、何人いるだろうな】

【……責任は摩虎羅に押し付けよう】


アニラの決意に、ハイラとバサラは同じように頷いておいた。