#09
食べ終えてゴミを片付けていると、廊下から足音が聞こえてきた。
「お帰り団長」「もう飯はねーぞ」
「もう済ませてきた」
すました顔してやってきたクロロに団員達は
フレンドリーに話しかける。
しかし、は嫌なものを見た時のように顔を顰めた。
「居心地はどうだ?」
「貴方が来なければ快適だったわ。ご丁寧にこんなものまで
用意してくれちゃって」
ジャラッ
手錠を見せ付けるように手を胸まで上げる。
「用心に越したことはないだろ?特にお前の能力は俺でも
概要すら掴めていないものだからな」
「人にベラベラ明かす類のものじゃないんだから当たり前」
プロになったら命にも直結するくらい大切なのが念というものだ。
それを敵に教えるほど馬鹿なつもりはない。
「だから必要だろ。金の瞳に漆黒の髪、銀色の鎖」
クロロは風呂に入って湿ったの髪の一房に手をかけた。
「そして、俺すら見惚れさせたあのオーラ。
どんな宝石よりも綺麗で価値がある。欲しいものは必ず盗む。
それが俺の信条だ。手に入れたからには逃がさないように
しないとな」
パシッ
はクロロに触られていた髪を弾いた。
「私に劣情を帯びて触れていいのは、私が惚れた男だけよ」
女として守りたい一線。
それに踏み込んでいいのはこの男じゃない。
感性でそう感じた。
ガッ
クロロはの両手を片手で掴み、を自分に寄り添わせた。
「なら俺に惚れろ」
「っ!!」
有無を言わせない口調の後、クロロはに唇を触れさせた。
生暖かい感触は動揺していてもリアルに感じ取ってしまう。
が、そこで大人しくするほど、は大人でもなく、
か弱くもなかった。
バコォッ ドンッ ッパアァン
「っ!」
最初にハイヒールの先で弁慶の泣き所を懇親の力で蹴り、
怯んだ所で両手でクロロの胸を押しやり、脱出。
最後にオマケとばかりに平手が飛んだ。
それからある程度の距離を作り、耳まで真っ赤にして
は怒鳴った。
「いきなりセクハラするな!!」
「おお〜中々やるな」
「団長相手であの状態から逃げる奴、そうそういないね」
「タラシの空気に流されなかったのも賞賛できるな」
最初がウボー、次にフェイタン、ノブナガと褒め言葉が降ってきた。
「もしかしてファーストキスだったか?」
の平手で片頬は赤みを帯びているが、
余裕の様子は一向に変わることはない。
「違うけど、ヤダ!!口舐められるし、何か気持ち悪い!!」
気持ち悪い!?
流石のクロロも最後の一言に大打撃を受けた様子だ。
「男としては、キツイよね」
「ああ、キツイな」
シャルとフィンクスがクロロに同情的な視線を送った。
女性との経験の豊富なクロロは間違いなくキスは
序の口で、自信があったはずだ。
それをいとも簡単に拒否されては…やっぱり可哀想だ。
「さっきのは団長が悪いね」
「ええ、団長が悪いわ。こっちに来なさい。
寝れる場所に案内するから」
女性コンビは大仰に頷き、パクノダがを手招きする。
「はーい」
言葉の刃物で傷ついたクロロをそのままにしては
パクとマチに素直に付いて行った。
「必ず、手に入れてやる」
後ろではクロロがそう呟いていたことをは
知る由もなく、また聞くつもりもなかった。
