#05
「サトツさん、この会場何人いると思います?」
「少なく見積もって250人ですね。全員避難させるのは難義です」
お互い目を合わせず、戦闘態勢のまま会話した。
愛刀の薙刀を持ち、サトツはエモノこそ持っていないが
オーラの充満率が高まっていくのをが肌で感じていた。
舞い散る埃が段々と地面に落ち着いていくと、彼らの顔が見え始めてくる。
「ほう、誰かと思えば、か。これは思わぬ掘り出しモノだな」
賊の先頭に立っていたのは、クロロ=ルシルフル。
………ん?ちょっと待て。その後ろ…。
「シャル!!?」
「あちゃーバレちゃった」
口ではそう言ってもどことなく楽しんでいるのは
ハンターで同期のシャルナークだった。
「旅団メンバー?」
「うん。しかも結成当時からのね」
悪気なんぞ一欠けらもない声色。
警戒心を感じない表情に余裕を匂わせる体勢。
そしてあんな派手は登場も、どれをどう考えてもを
挑発しているとしか思えなかった。
「知り合いですか?」
「ハンター試験の同期です。盗賊してるなんて全然知り
ませんでしたけど」
サトツの質問に答え、は薙刀の柄の先をコツンと
地面に垂直に据えた。
「目的は翡翠髑髏?古文板?」
「どちらもね。だからすぐにこれ外すよ」
外すとはハイラに張ってもらっている結界のことだろう。
ハイラは本体は薄桃の角を持った羊。
彼女の能力は“防御の毛玉(プロテクトウール)”
古木のような角が額に生え、それを核にしてバリアーを張ること
ができる。強度と規模は反比例し、波夷羅の体力にも左右される。
今張られている規模は半径30m。
これくらいなら後1週間は今の規模と強度を保つことは可能だ。
「いかにも人殺したいですな目をして、意見が通ると思う?」
細い、鋭い眼をした覆面の男。
その眼力はを一直線に貫き、血飛沫を楽しみに
していると経験上から理解していた。
「お前、馬鹿じゃないね」
口元が見えなくても目が笑っていた。
危ない人の眼だ。
「サトツさん、ゴメンなさい」
「は?」
の突然の謝罪に理解が及ばないサトツは外れた声を出した。
「伐祈羅、“安らかなる鐘引(スリーピングベル)”を奏でよ!!」
がそう命令を下すと、ハイラの出てきた狭間から
首元にでかい鈴つけた純白の牛が現れる。
リーン ゴーン
バサラの首の鈴は結界の中で反射し、
バタバタと人が倒れ、眠りについた。
「…さ…」
サトツは呟きを漏らし、力尽きたように
膝をついてその場に倒れた。
「おい、あの女、全員寝かせちまったぜ」
眉なしのジャージ男が呆れた台詞を吐く。
「足手まといはいらないに決まってるでしょ」
上の胴着とスパッツの出で立ちの美少女が
ジャージ男の台詞に返答した。
まあ、その意もないって言ったら嘘だ。
足手まといかかえこんで勝てる相手じゃない。
どうせバサラの鐘、“安らかなる鐘引(スリーピングベル)”
は人体に影響を与えることはない。彼のつける鈴の音は聞いた者を
瞬時に眠らせることができる。そして6時間以内であれば記憶操作もできる。
波夷羅のバリアーがあるから旅団にまではバサラの鐘は届かなかったようだ。
「額爾羅、私達以外の全員を北西3Kmのシュエルツ病院玄関へ」
その命令に反応するように狭間から出てきたのは金色の竜。
【了承した】
シャランッ
どこからか金属の奏でる旋律が大気を揺らし、それに反応して人が
手を広げても4人以上飲み込めそうな闇色の穴が開いた。
その穴に竜巻のような渦を巻く風が吹き荒れ、が呼び
出した獣以外全員が飲み込まれ、穴は消えた。
