#04






「ふぅ」

短い嘆息。

は慣れないハイヒールで足元に気をつけながら椅子に腰掛けた。

カイトとの一件から今日で3日。

学会も最終日にもつれこんだ。


「おや、さん。お疲れ様です」

「こんにちはサトツさん」


いつでも、それこそ密林であってもジェントルマンスタイルを
崩さない
遺跡ハンターのサトツに声をかけられは挨拶した。


さんの初日の発表には感嘆させられましたよ。
まさか、現代との類似点をあそこまで指摘するとは…。
ルルカ文明の古代文字はこれで決定的な糸口を掴みましたね」


ルルカ文字はジンさんが発掘した世界的な遺跡発掘の
際に共に出てきた文字。

私はルルカ文字との類似言語を見つけて照合し、
解読の手伝いをしただけ。

そしたらこんな場所での発表を頼まれた。


「観点さえ発見できればあの文字の完全解読は時間の
問題です。後は専門家の方にゲタを預けますよ」

は自動販売機にコインを入れ、ストレートティーのボタンを押した。

「それにしても、今回もジン=フリークスさんは来ませんでしたね」

残念そうにヒゲをいじるサトツさんを慰めるように
は会話を続ける。

「面倒くさがりな人ですから。どうせ新しい面白いものでも
追いかけているんでしょう」

さんは彼の弟子でしたね」

「念に関して少し指示を受けただけですけど」

羨ましそうにしているサトツにそこまで詳しい訳ではないと
言って、は苦笑した。

「そろそろ次の講義が始まりますね。戻りましょうか」

「そうですね」

は紙コップをくずかごに入れてサトツと共に
会場へと戻っていった。




+*+*



スクリーンの画像について説明するどこかの大学の教授。

遺跡の北側と南側の建築様式の異なりについて論じている
ようだが、まだまだ叩く余地のある内容である。

は半分聞き流して、どうしてもカイトの件を考えてしまう。
と同い年の少女なら普通にする恋愛。

この世界にくる前、友人の恋愛を応援したり、のろけ話も
失恋話も聞いていたが、自分から恋愛をしようとする物理的
な暇も心理的な暇もなかった。

目の前の物事にだけ集中して、わき目を振ろうとはしなかった。


『俺はお前に恋愛感情を持っちまった』


告白されたのは初めてじゃないのに。


『諦めない』


何回も何回も好きだって言ってくるしつこい人もいたのに。

それでも心を動かさないでいられていたのに…。

どうして、どうして?

どうして、カイトにはこんなにゴメンなさいが苦しいの?


ちゃん』


あの人のこと、忘れてないのに。

あの声も、守ってくれた背中も、存在そのものも。

思い出しただけでまだこんなにも心がいっぱいになるのに。

私は……。


「ではこちらに目を向けていただきたい」


っは。

思考の渦から呼び起こされ、は教壇に置かれ
たものに視線を向けた。


「珍しいもの持ってくるのね」


教卓に置かれたのは翡翠で作られたヒトの髑髏。

解剖学的にも正確な作りをしているそれは、古代に
あっては不可解な品、オーパーツの1つである。

でもあれはルルカで発見されたものではないはず…。

何の為にあれが必要なのかには理解ができなかった。


「オーパーツの代表として名高いこの遺物ですが、初日にプロハンターの
さんからご解説いただいた解読法を北側の古文に用いたところ
“南方の翡翠骨、時の交じりを誘うもの”とありました。
ここで翡翠骨とはこれを示すと思われ、南東1000km先
にあるこの翡翠髑髏の発掘場所、ユラント遺跡との交易関係
の立証に繋がると私は確信しています」

そんな文あったんだ。情報不足だったな。

そしてまた、長ったらしい講義が続けられる。


「以上をもちましてルルカ文明関連の学会を閉会させて
いただいます。また、30分後この会場にて懇談会を…」


一応お世話になった教授と現責任者に挨拶して帰ろう。

懇談会の出席辞退をすでに取り決めて、は席を立とうとした
その時、会場と廊下を挟む扉から殺気と膨れ、練られていく
念の気配が漏れてきた。


「皆伏せろ!!ッ波夷羅〔ハイラ〕!会場全体に張れ!!」


は隠し持っていた薙刀の刃で虚空を切り、
ハイラを呼び出し、怒声を突いた。


どうしたんだと訝しげな学者達の中、と同じように悟った
サトツがの隣に立った瞬間。


ドドドドドドッ


連続する爆音が鼓膜を大きく揺らした。

大きな振動が会場を揺らし、へたり込む者も半数いる。

それでも、怪我どころか、かすり傷1つとて負っている者はいなかった。


「……手抜きし過ぎたか」

扉のあった場所は無残にも破壊され、埃が舞い、そこから大きな人の
シルエットが浮かび上がる…いや、それだけなく複数の、念能力者。


「あれ以上強くしたらお宝まで壊れるよ」

「結界だな。この規模でフランクリンの念弾に耐え
られるとは大したものだ」

「1人も飛び散てないよ。つまらないね」

「面白れえ。ちょっとは遊べそうだな」

1人は女性の声音、1人は中国訛りの発音が特徴があった。

そして、うち1人…聞いた声があった。


「幻影…旅団」

は、警戒を多く含んだ声でそう呟いた。