#03
マコラとハイラを元の空間に戻すと、カイトが
大きくため息を吐いた。
「お前、ほんと厄介な奴だな」
「急に何よ」
はむっとしてカイトを見た。
マコラの言葉は、俺を焦らせる。
時間がないなら今すぐ行動しなくてはいけない。
思い立つと、カイトは椅子から立ち上がり、
の目の前まで来る。
「先に謝る。すまん」
「だからなっん」
の腕を強引に引っ張り自分の胸に埋めた。
「っちょ、カイト!?」
いきなり抱きすくめられては驚いて抵抗しようにも、
腕力では圧倒的にカイトに分があった。
なな、何が起きてるの!?
いや、その前にカイトは何がしたいの!?
ううん、本当は予想はついているんだけどさ…本気で
分からないほど子供じゃないし、人生歩んでない。
「黙って聴いてろ」
有無を言わせない口調は、兄でも友人でもない、男性だった。
「最初は、ちっこい女の子だったんだ」
『…何で行き倒れ?』
そう言って、不審に思っても介抱してくれた少女。
『カイト手合いするよ』
自分の求めるもののため、まっすぐに顔を上げる凛然とした
雰囲気に、何度息を飲んだだろう。
その真剣な瞳に魅入られたと気づくのは時間はいらないが、
認めるのには季節が一回りしていた。
「は、俺に恋愛感情持ってないことは知っている」
その瞳は俺とお前の思う感情の違いをはっきりと映し出していた。
「でも、俺はお前に恋愛感情を持っちまった」
その瞳に、心に、自分という存在を少しでも多く、長くいたかった。
「急にこんなこと言われても困るだけだろ?」
は、素直に小さく首を縦に振った。
私は、カイトを決して嫌いじゃない。
頼れる人で、強くて、カッコイイなって思ったらちょっと
可愛くて……落ち着ける存在。
私はずっと恋愛感情を向けられても断って、逃げてきた。
最初に恋した人との終わり方が記憶に密着して忘れられない。
忘れられない人がいるのに付き合うのはすごく失礼だと思ってる。
だから、ごめんね。
そう何回も口にした。
「ゴメンなさい」
傷つけるなら、浅いほうがいい。
「カイトと同じ感情を持てなくて、ゴメンなさい」
の金色の瞳から、水滴が浮き上がり、カイトの服に染み込んだ。
「だから知ってるって。それでも、諦めない。
ハンターってのは強情者ぞろいな商売だからな」
本当は言ってしまいたい。
帰らないでくれ。
元の世界より、俺を選んでくれ。
「明日は朝すぐ出るから飯はいい。
その代わり、じっくり考えとけ」
の耳元にそう囁いて、カイトは客室のドアを開け、
の視界からいなくなった。
ねえ、“世界”…私はもうあの場所に戻れないの?
新月の夜に消える困惑の音。
疑問に必ずしも答えがあるとは限らず、答えがあったとしても、
道筋を見つけられるかも定かではない。
どこまでも続く見えない道。
失ったものは見つけられるのか?
