#01
朝の眩い光がすべてを照らす中、ベットに流れる
金糸の髪はその光を反射して輝いていた。
「カイトーシーツ洗って干したいから起きてよー」
客室――カイト専用になっている感もしなくもない――で寝ている
カイトをは揺さぶって起こそうとする。
「もう3時間…」
布団にもぐってくぐもった声は眠たげな様子をよく表わしていたが、
客としては近すぎる関係上、ちょっと意地悪をしてみることにした。
「ふーん、朝ごはんローストビーフのサンドイッチだけど
トゥエルブモンスターの誰かに食べられてもいいと…」
レタスとトマト、モッツァレラチーズにアボガドの
サラダもなくなるな〜。
和食よりも洋食派なカイトの好物であるメニューを
並べてみると金の長い髪を掻きながら起き上がった。
「俺が食う」
ぶすっと言う兄弟子兼友人におはようと微笑み、
はカイトを部屋から追い出した。
がこの世界に来て、丸1年の月日が過ぎた。
その月日は決して短くはない。
今ははプロハンターと認められ、カイトもジンを
見つけ、お互い本格的にハンターを営んでいる。
「にしても鉱山買い込むなんて思い切ったことしたね」
洗濯物を干し終わって捲し上げた袖を直しながら
はカイトにそう言った。
カイトは砂糖とミルクを同量に入れたカフェオレを喉に流し込む。
「少しそこのガキ共に同情しただけだ」
「ふーん、同情だけで20億も借金するんだ」
にやにや意地悪く笑って、ポットの残りのカフェオレ
を自分のカップに注いだ。
私だから無担保無利子で貸せたっていうのも大きいだろうけどね。
プロのハンターとなればハイリスクハイリターンの率が格段に高くなる。
それでも炭鉱を買うのは莫大な金が必要だ。
「〜っ悪かったよ。5年以内に全額返済するから待ってろ!」
「期待しておくね。で?そのゴン君、そんなにジンさんと似てるの?」
カイトがくじら島で助けたジンさんの息子、ゴン。
(最近父親のジンにも確認を入れたから確かだろう)
おじさんと言われて落ち込んだカイトを見るのは、ちょっと面白かった。
そしてカイトはそのゴン君が気に入ったのか話題を転換させるのにカイト
も私もよく使わせてもらっている。
いつか会うことがあったら何か奢るかしてあげよう。
「似てる。顔の造作もあるが、雰囲気がな。
あ、でも少しだけにも似てたかもな」
「どこが?」
「意地っ張りなとことか」
カイトはきっぱりと言い切った。
「どうせ我侭娘の強情者ですよ!」
ああもう!知り合いのおじちゃん思い出しちゃった!!
はほんのり顔を火照らせ、カイトは可笑しそうに笑い出す。
「ま、強情じゃないとやってけない商売だがな」
「それもそうね。どいつもこいつも一癖も二癖もある変人だもの」
ネテロ会長はその最たるものだが、星なしであっても
一般人と呼べる者はいないと確信できる。
「ま、なんとなくだ。なんとなく」
「ふーん。なんとなくね」
は釈然としないままカイトの食べ終わった食器を
流しに置き、蛇口を捻った。
ジャー
冷たい水が適量に続き、スポンジで汚れを洗い流していく。
「明日からルルカ遺跡研究者に呼ばれて学会出席するけど、
カイトいつまでここいる?」
「んー俺も明日出てくかな」
「了解。先外出ててよ。私もすぐ行くから」
「おう」
+*+
「「お願いします」」
穏やかな日差しと風がとカイトの手合いを見守った。
拳3回フェイントに右足本命。
ヒュヒュヒュッ
は的確にカイトから繰り出される攻撃を読み、
受け止めるのでなく、受け流す。
大振りの右アッパー、左拳鳩尾狙い。
カイトも負けずにの攻撃を止める。
バシッ ヒュッ パンッ
常人であれば2人がどの様に動いているのかさえ、
目で追うことは適わない。
力で攻撃を受け止め、裏の裏のまた裏まで考えた攻め方のカイトに、
攻撃を最低限の力で受け流し、すべての攻撃を的確に急所を狙う。
どちらも格闘家であればお手本にしたいくらい、
無駄のない、ある意味の美しさを兼ねた手合いである。
ドゴオッ
「っく」
カイトの胸の真ん中にの掌拳打が命中した。
「やった!これで150戦50勝42引き分け。追いついてきた」
ザッと音を立てて滑るように地面に下りては
ガッツポーズを小さくした。
「俺は58勝か。つーかさっきのは何だ?
避けてもモロに食らったぞ」
一瞬呼吸が止まって、今でも鈍い痛みがある。
は本気で厄介な相手へと驀進成長中だ。
「体で覚えてるから説明できない」
「成程な。次はエモノありでやるか」
「OK」
カイトは家の壁に立てかけた長剣を握り、はベルトのショルダー
から折りたたみ式の薙刀を取り出した。
「念能力ありにもする?」
「あれを呼び出すと煩い」
「あはは、クレイジーピエロは確かに口数は多いわ」
静かに流れる時。
郷愁を薄めてくれる、心安らかな、時間。
