一時の別れ
がやがや騒がしく、活気ある町中で歩いて
お昼を食べようと料理亭に入って席を取った。
カイトはテーブルにあったメモ帳にペンを走らせる。
「ほら、俺のケータイ番号とホームコード。今のうちに登録しろよ」
「わかった」
番号の書かれた紙切れを受け取っては今し方買った
ばかりのケータイを操って番号を入力する。
「使い慣れてるな。の世界にもあったのか?」
カイトにはがこの世界の住人でないことを教えてある。
世界中を歩いているのであれば何か手がかりを知っているのではないかと
思ったのだが、結果、何も知らないという答えが返ってきた。
はポチポチとケータイをいじりながらカイトの質問に答える。
「あったよ。こんなに世界中使えるってほどでもなかったけど」
使えても数十カ国が限界だったし。
それに何十万もする値段ではなかった。
「登録完了!はい、カイト私の方の番号」
ディスプレイを見せてカイトに渡そうとするがカイトは
コップの水を飲みながらそれを制した。
「もう俺は登録したぞ」
「早ッ!何時の間に番号知ったのよ」
この店入ってからケータイ一回も出してないよね!?
「買ったときにはもう番号入力したんだよ。お、飯が来たぜ」
ウェイターが持ってきたのは海の街らしい海産物たっぷりのパスタ。
嫌いな人はとことん嫌いだけど嫌いな食べ物が
ない私にはどんな料理がきてもどんとこいだ。
しかし……。
「カイト、この毒々しい色したエビは何?」
紫色の殻をしたエビなんて見たことないよ!!
「アジサイエビっていうんだ。ま、その辺は慣れるしかねーな。味は上手いぜ」
確かにカイトは何の躊躇もなく食べている。
私も恐る恐る食べてみた。
「……こんな色して美味しいなんて納得いかないわ」
美味しいのよ。普通に食べられる味だよ。
紫なんて色してるエビが!!
「そんなもんだ」
「そんなものですか」
習うより慣れろ。
そんな慰めが頭の中で浮かんだ。
・
*
・
*
・
「ここでお別れだな」
潮の匂いが全部に染みついてる港。
青に支配された風景に木の船が浮かんでいる。
カイトはあれに乗るらしい。
「気をつけてね」
「お互いにな」
次、会えるか分からないけど。
それまでバイバイ。
