スナイパー
シャーペンを一生懸紙に走らせ、スコアを埋めていく。
きっと、今の私は選手と同じくらい鬼気迫る雰囲気を出しているのだろう。
双子の兄、緑間真太郎は普段と変わらぬ高く、長い弧を描くシュートを放った。
ボールがゴールリングのネットを抜けぬうちに私は3Pの印を紙に書き込んだ。
だって、あいつのシュートが入らないなんてありえないもの。
真のシュートは玄人のスナイパーと同じように、的であるゴールリングのネットの中を射抜いた。
真は、中学3年間すべて全国優勝した帝光中学のNO1シューターだった。
私は、中学も今もバスケ部のマネージャーとして彼のサポートをしている……結構不本意なとこもあるけどね。
相手チームがゴール脇からパスするが、大坪主将がそれを奪い、ダンクでプラス2点を追加。
スコアに2Pの印を書き込んだ。
第4Qの終わりが近づいてきた。
3,2,1…0 ピピーッ
審判の笛が鳴り、試合は終了した。
102対14
圧倒的差で私達、秀徳高校の勝利。
ま、いつものこと且つ当たり前の事項だ。
「我らが主将大坪先輩のダンクは誰にも負けはしないっ!」
「俺の存在を忘れるとは何事だ」
ずびっ
「イタッ!」
脳天にチョップを食らった。私は頭を押さえ、チョップをしてきた相手を睨んだ。
緑がかった髪と下まつげの長い目、黒縁の眼鏡に日本人離れした長身は私にとって誰よりも近い位置にいる片割れだ。
「アンタの曲芸3Pなんか見飽きてんのよ、オニイサマ」
「曲芸ではない、芸術なのだよ。
それより、、スコアを寄越せ」
「はいはい」
そう言われて先ほどまで書いていたスコアと真に渡した。
真はそのままベンチに座り、左手を無言で差し出してくる。私はポシェットを取り出し、軽く真の手の汗を拭ってからテープを巻いて、テープを鋏でカットする。
「いつも通り、真のスコアは3Pで埋め尽くされてるわよ。
反対に大坪主将は2Pで稼いでくれて内外どちらも鉄壁。
これならトーナメント決勝で正邦に負けないんじゃない?」
「……正邦が来るかは決まっていないのだよ」
「ん?」
真が難しい顔をする後ろで、高尾が喉を震わせ笑っている。
私は気になって高尾に目配せした。
高尾は秀徳に来てから知り合った部活仲間だが、恐ろしいことに、変人と名高い真に普通に接することができている。
リヤカーを自転車で引かせられたり、真の我侭にさんざんつき合わされているのに見放さない上に、真の扱い方を着実にマスターしてるので、心の中で尊敬と感謝の念を送っている人物でもある。
「真ちゃんは誠凛が気になってしょうがないんだって」
高尾は苦笑しながらそう教えてくれた。
私は、はて、と鋏を持った手の人差し指を下唇に触れさせた。
「誠凛って、去年の都大会4位だよね。
そんな気にするほど強いチームには思えないけど……」
1年生だけでリーグまで進んだことは評価できるけど、他の3校にはトリプルスコアで全敗している。
去年よりも強くなったうちや正邦が負けるなんて想像もできない。
「それが同中で一目置いてる奴が誠凛にいるんだってさ。
しかもそいつ以外にも有望なルーキーが1人いて全然違うチームになったっぽいよ」
テーピングをし終え、鋏とテープをポシェットに仕舞う。
元帝光バスケ部、誠凛、真が一目置く選手……それらのキーワードで浮かび上がったのは、たった一人だ。
「真が一目置いてる誠凛の生徒……ってことは黒ちゃん!?
ちょ、ちょっと真、真っ!!
もしかして黒ちゃんの試合見たの!?
いつ?どこで!?」
「っぐほっ」
「ちゃん真ちゃんの首絞まってる、危険だから!」
テーピングが終わってベンチから立とうとした真のユニフォームの首後ろを思いっきり引っ張ったのが悪かったらしい。
しぶしぶ手を放して真の気管が回復するのを待った。
「ちゃーん!そっち終わったなら手伝ってー」
荒い呼吸を真が繰り返しているうちに先輩に声をかけられ、その話は部活の後に持ち越された。
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