お化け
「で、いつ誠凛の試合見に行ったの?」
部活を終え、制服に着替えて自転車置き場まで3人で歩く。
誠凛高校と黒子テツヤ。
彼には、中学の卒業式以来会っていない。
『さんは、聞かないんですか?』
卒業証書の入った黒い筒でカバンの肩紐をかけ直す。
軽いカバンには筆箱とクリアファイルそれに最後の思い出を撮るためのデジカメしか入っていない。
今までは教科書やら受験の参考書やら部活関係の道具やらで重いカバンしか持っていなかったので、なんとなく違和感がある。
『進学先のことなら、私はいいよ。
他の子達には教えた?』
『事後報告はしましたけど……大ブーイングくらいました』
『それはそうでしょ。特にスタメン連中は自分達と同じ学校じゃなきゃ文句言うよ。
私は真と同じ秀徳に行くんだ。なんだかんだでバスケのマネ面白かったし、高校でも続けるつもり。
でね、都大会で上ってくれば会えるから、ちゃんと上がってきてね。
黒ちゃんの新しい光と一緒に』
『まだ見つかるかわかりません』
『見つかるよ……というか、黒ちゃんが光にしちゃうの』
問題は、その光がキセキ達と同じ過ちを犯さないかどうか……。
『黒ちゃんを大会の会場で探すの楽しみにしてるから』
『混雑してる大会会場で僕を探そうなんて、さんくらいですよ』
彼は少しだけ、口元を緩めたように見えた。
私は、いつも無表情な彼がちょっとだけ表情を動かすのを見るのが、とても好きだったので、その最後のはにかみをカバンの中のデジカメで撮れなかったのが、少し悔しかった。
「黄瀬が海常と誠凛が試合をすると知らせてきた。
誠凛を負かして黒子を海常に転校させると言っていたが」
高尾が自転車に鍵を挿している間に、真はため息と一緒に答えを吐き出した。私は真の返答に目を見開いた。
「負けたの、黄瀬が?」
真は頷いた。
「あーらら、入学早々やっちゃったねぇ。でも初めての負けが今のうちで良かったかも。
黄瀬は帝光でバスケを始めたから、負けなんて一度も知らないし」
黄瀬涼太。
雑誌モデルをしているくらい顔の作りがいい中学時代の友人は、どうやらちょっと挫折を知ったらしい。
黒ちゃんが大好きなのに、大好きなバスケで負かされたのでは相当凹んだだろうに。
今日、久しぶりにメールしてみるか。
「イジメはほどほどにした?」
「イジメた記憶などないのだよ」
いや、黄瀬はいつも真を含めたレギュラー陣にいじられていたぞ。
愛されているとも言えなくは無いが、見てて哀れに思ったことも一度や二度ではない。
「……黒子が誠凛に行ったのはある意味、の所為だろうに」
「所為って人聞きの悪い。
私は可能性の1つを意見しただけだもん。
ま、新設校の誠凛ってのはちょっとビックリしたけど」
「まったくだ」
「あのさ〜双子、俺を置いて会話しないでくんない?」
愛用の自転車を連れた高尾が不満を行ってきたので、私と真は同時に振り向いた。
二卵性でも行動は似通ってしまうものらしい。
「んとね、今話の中心になってるのは黒子テツヤっていう私達の共通の友達。
私達の通ってた帝光はバスケ部が超強くて、特に真も含めた5人のスタメンは10年に1人の逸材が集まったからキセキの世代なんてご大層な呼び名が広がってたの」
「でもその“黒ちゃん”はキセキじゃねーよな。
俺名前聞いたことねーもん」
私達はまた同時に頷いた。
「だろうね」
「聞いたことがあったらこちらが驚く」
黒ちゃんは5人のキセキという光にできた影だ。
アシスト特化の、表に出てこない幻の六人目。
「黒ちゃんがどう凄いかは試合を見ないとわかんないからまた今度話すよ。
で、その黒ちゃんは全中優勝した時に部活辞めちゃったんだよね。
しかもそれから卒業まで学校でも中々掴まらないし、私は心配と憤りに心をもやもやさせていたのです」
「ふーん、2人がそこまで気にかけるなんてよっぽど凄い奴なんだな。
ちょっと興味わいて来た」
高尾がそう言うと、私と真は即座に真実を告げておいた。
「体力と持久力は選手として最低レベルだけどね」
「ドリブルやディフェンス、ましてやシュートなど見るに耐えんがな」
「っえ!?何でそんな奴評価してんの!?」
「カッコカワイくて面白いから」
「パスとスティールの能力とバスケにかける努力は尊敬に値する」
「……うん、黒子ってのは試合見てから判断するわ」
「試合見るなら黒ちゃんをじっと見ててね。
ちょっと気をそらすとお化けみたいに消えちゃうから」
「これ以上混乱するような情報寄越すなよ!!」
そんな会話をしながら、私達は夜の暗闇の中へと消えていった。
この話題になった黒子テツヤと再開するのは、近い未来。