黒蝶陰陽師12
「動かねえな」
犬飼がそう呟いた。
その後ろで兎丸が心配そうにそわそわとしていた。
「もう1刻近くずっとこのままだよ」
の体は野原に描かれた円陣の真ん中で
ずっと立っているだけだった。
「もう我慢できねーよ兄ちゃん!なあどうなっち
まったんだよ!!」
「落ち着け由太郎。信じて待つしか今の我らには出来ぬ」
「おい魁ちゃんあれ!」
小饂飩が指差す。
それは、の周りに台風のような風が吹き荒れていた。
「これはどうした事なんだい!?可憐にも艶やかな君を
囲むように突風の渦が!!」
「めんどいから素直に竜巻って言おうよ」
結わえられていたの髪は風に吹かれて無造作にうねる。
白の衣もバタバタと音をたてて風に押し出される。
「結界が崩れるぜ!!」
烏帽子を押えつけながら影洲が風に対抗するように
地に足を踏みつける。
「総員退避!!出来るだけ円陣から離れるのよ!!」
「でもはどうするネ!?」
紅印の命令にワンタンが否を申し付けるが剣菱は
首を振ってそれを拒否した。
「今俺らがここにいても出来る事はない!」
「録、白春、御柳!俺達は外郭を囲んで風の影響を
最小限まで押えつけるぞ!!」
「「「承知!!」」」
録と白春と御柳は手で印を作り円陣の外にもう1つ円を作った。
「蛇神君、これは彼の神の仕業だ!道を作るから手伝ってくれ!」
「是!鹿目、獅子川、犬飼、猿野、兎丸は我に続け!
子津、司馬、辰羅川はその補強を頼む也!」
牛尾の号令に蛇神は部下の配置をすぐに命じる。
それぞれは言われた通りに行動を開始した。
竜巻の中でにたりとした笑い顔がまた垣間見える。
【大事にされておるのう】
それだけを言い残し、イザナミは牛尾達の作った
道を風に乗って登っていく。
【娘、帥が鬼籍に入るときは妾が直々に迎えてやる。
それまでは好きに生きるがよい。
どこまでその心根が持てるのか見ていてやろう】
だけに残された囁き。
風が収まると、野原の草を布団にして寝ている
が発見された。
一筋の涙の軌跡は生理現象なのか、それとも……。
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