黒蝶陰陽師10
「雀〜時はいくつ?」
「牛之刻二 目前」
儀式開始の時間だった。
すべての人間に緊張が走る。
「神降ろしを始める」
蛇神はそう申告し、は円陣の真ん中に進み出た。
円の中心に立ち、1度上も向いて大きく深呼吸をする。
体の気を自然の流れと合わせ、呼吸は次第に浅くなっていく。
「オン!」
札を持ち円陣を囲む陰陽師が一斉にそう唱えた。
ほのかな光が陣とを囲んだ。
シャラン シャラン
の手に持つ小ぶりでたわわに実る果実のように
結んである鈴の音が厳かに野原に響く。
「天より我らの住まう地を生み出だし、
我らを見守る神々を作り出す古の神。
カグツチの炎に看取られ黄泉への道へ歩きし御身。
日夜千の魂魄を迎え、
千と五百の新しき魂魄を送り出す」
シャラン シャラン
鈴の音と詔が合わさり、重力に似た圧迫感が生み出される。
来る。
そう確信した。
「我が身を差し出す。
我が願いを聞き届けよ!!」
声を一層張り上げてシャアァンと鈴も高らかに鳴り響いた。
数瞬して、は力が抜けたように膝をついた。
「!?」「!?」
「待て!!!」
何人かが駆け出そうとするが屑桐の一喝で留められた。
「御神のご登場だ」
屑桐は膝をつくがいつもとちがう、にたりとした
口元の上げ方をするのを見逃さなかった。
そして""はゆっくりと立ち上がり、
自身の手のひらを眺めた。
【ふむ、悪くないな。現世へと降りるのは幾年振りであろうか】
「イザ…ナミ…」
の体には、でないものが宿ったとその場にいる全員が悟った。
【いかにも、妾(わらわ)がイザナミじゃ】
""から仄かに立ち上る青い光。
それがイザナミであると語っている。
【妾への願いとは、この狭間を閉めることだと
この体は言っておるが、相違ないかえ?】
牛尾が3歩前に進み出る。
「ええ。その為にお力をお借りしたい」
【妾の娘のアマテラスの子孫か…このような事で
妾を呼ぶとはなんとも愚かな。まあ良い】
ふうっと息を吹くと端からじくじくと門は姿を消していき、
少しばかりすると何事もなかったかのように元の風景に戻った。
「ウソォ、こんな簡単に…」
「これが、神の力…」
唖然とする輩を""は艶然と眺める。
【約定はこれで守った】
簪を引き抜き、地に投げ捨てる。
【可笑しな娘じゃ。我ら神の血を引いている訳でもなし。
今もこの体に必死にしがみついておる】
胸元に手を当ててくくくと""は笑った。
【妾と夫の作りしこの地にそれほどの未練があるのか…
ほんに人とは面白いものじゃ】
""は目を瞑った。
その内にいるに会うために。
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