黒蝶陰陽師6








「見事だった」

「ありがとうございます」


屑桐からの認められた証となる言葉には心から微笑んだ。


「実際、貴族の方々を相手にするのにあのような
殲滅方法はそれほど必要とされるものではありま
せんから致し方ないでしょう」


白湯を湯飲みにつぎ、屑桐へと渡すと頷いて
屑桐はそれを受け取った。


「それでもビミョーにあの術の使い方は一流の陰陽師だよ」


すでに白湯をから受け取っている剣菱は湯飲みに
口をつけてからそう言葉にした。


「必要になれば誰でもあの程度は出来るようになります」

「否、無理だろ!」


ズビシッとツッコミを入れたのは剣菱配下の中宮影洲。


「そうねぇ、少なくとも菅原道真公のお力を
借りるのはかなり難しいわよ」


影洲の言に同意するのは影洲の姉、否、兄の中宮紅印。



雷神様と言えば北野天満宮に奉られている菅原道真。

名高い怨霊だったのだが現代では学問の神様として
全国各地で奉られている。


「いいえ、誠意さえ見せれば道真公は力を貸してくれます。

特に国全体を揺るがすこのような事態であれば尚更……」


その台詞に幾人かしていた動作を一瞬止めた。


殿、そのように皆を怯えさせるものではない也」


すっと、仮小屋の出入り口に駆けられている簾が動いた。


「頭!」
「蛇神さん!」

「帝!」
「御上!何故この様な場所に!?」


周りが入ってきた人物達の名を口々に声に出す。


「……ちょっと待った」


は蛇神と共に来た金色の髪の青年がなんと呼ばれたか
を頭の中で繰り返した。


「今上天皇!?」


今上天皇である牛尾は同意の意味で頷いた。


「ああ、天皇の位を任されている牛尾御門だよ。はじめまして君」


この国でもっとも高貴なる存在にして現人(あらひと)神
である天皇がよりにもよってこんな危険地帯に足を運ぶか!?


それにそんな簡単には顔を晒しちゃいけないんじゃ
なかったっけ!?


、あれは本物だ。とりあえず認めておけ」


犬飼の一言に現実逃避を阻まれた。

言いたいことを全部喉から先に出さないように
全力で押さえ込み、そして膝を地に着かせる。


「お初にお目にかかります今上帝。私は宇治の地にて辻陰陽師を
生業としていますと申す者にございます。

今上帝にはお目苦しい形でございますが、何故この様な事態故
お許しいただきたく存じます」



の礼を受け取ってから牛尾はすっと手を伸ばして
を立たせた。


「そんなに畏[かしこ]まらなくていいよ。ここでは僕の事は牛尾とでも
呼んでくれればいい。それに小難しい最上敬語もなしでね」


「…分かりました」


何か逆らう気も起きないので素直に従うことにした。


「はい、良くできました」


のそれに満足気な牛尾。


「蛇神殿はお久しぶりです」


今度は牛尾の隣に立つ蛇神に礼する


「3年ぶりになるのか。この様な事態に巻き込んですまない」

「いえ、だからこそ呼び出しに応じたのですし…話はここでは
控えたいのですが」


「そうだな。我らは席を移す也。皆は次に備えて体を休ませる様」


蛇神とはそう言って小屋から出て行く。


「なあ由太郎」

「何だ猿野?」

「蛇神さんとの関係がイマイチ掴めないんだが」


由太郎と魁が猿野の問いにピクリと肩を揺らす。


問われた由太郎はふいに目線を猿野からはずして、
囁くように答えを口にした。


「…約者」

「は?」


由太郎の声が小さくて聞き取れなかったので
猿野は思わず聞き返した。


「蛇神さんはの婚約者なんだっ!」


小屋が壊れそうな程の怒濤の悲鳴と驚きの声が溢れた。



















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