黒蝶陰陽師2
都から離れた宇治の地にひっそりと建っている小さな庵。
綺麗な川が朝の光を浴びてキラキラと光っている。
「ん〜朝かぁ」
庵の住人のはぐぐっと背伸びして桶でくんだ冷水を頭から浴びた。
ザパアァ
体全体に冷水がかかり、飛沫が地に広がる草木にも飛び散る。
「ぷは〜。冷たいけど頭は起き「あったぞ川辺の庵!!」
「やっと着いたのか」
「ったく俺をこんな田舎まで来させやがっ…て?」
爽やかであるはずの朝に乱入者。
三人の男性が茂みから現れた。
そして私は今水浴び中でして…。
「キャアアァァァァァア!!!」
爽やかなはずの朝はまだ乙女と呼べる少女の
悲鳴によって掻き消された。
+*+*+*+*+*+*
「朝っぱらからイイモン拝めたわ。役得役得♪」
「だな〜。イイモン見れたぜ」
ゴオオォン
庵の縁側に座って笑う無柳と猿野の頭に小気味よい音が鳴った。
降ってきたのはなぜか鉄釜2つ。
御柳と猿野は当たった部分に出来たたんこぶを押さえて低く唸る。
「ふざけないでよ!すっごく恥ずかしいんだから!!」
艶のある漆黒の髪を結い上げて狩衣に着替えてきたはまだ若干顔
の火照りが残るが少しは冷静になった所で頭を抑えて唸る2人を
放っておいて由太郎と向き合った。
「久しぶりユタ。魁兄とお義父さんとお義母さんは元気?」
「元気には元気だし三人とも相変わらず。家出たっつっても
少しくらい顔見せに来たっていいじゃんかよ」
ぶすっと拗ねた様相を見せながら由太郎はに抗議する。
それには心外だと袖の裾で口元を隠す。
「あら、手紙はちゃんと月に一度は式に運ばせてるよ。
顔見せなんかしたら親戚が五月蠅いじゃないの」
「手紙なんかじゃ俺は足りないんだ!」
憤慨して由太郎は勢いよく立ち上がる。
「おーい、俺等話についていけてねーぞ」
「この女と知り合いなのかよ」
猿野が由太郎に声をかけ、御柳はを指さして関係を問うた。
「私は十二の年まで村中家にお世話になってたの。
でも元々貴族の風習が煩わしくて修行って言って家を出たって事」
はかいつまんで今までの経緯を猿野と御柳に話した。
「その気持ち良くわかるぜ!」
「面倒だよな!なくていいって思うよな!!」
の気持ちがよく分かり、尚かつ思った自分の通りに
実行する猿野と御柳の二人は同時にの肩に手を置いた。
「よく言うよな。作法とかなら俺等の中で一番早く覚えたのなのにさ」
すねてる様の由太郎はまだを家に戻すのを諦めていない。
「ま、その話はその辺にどかしておいて、本題に移ってくれる?宮廷陰陽師殿」
ピクリと猿野と御柳の目つきが変わった。
「何で分かったのかって顔ね」
クスクスとは笑い、パチンと指を鳴らすと側に落ちていた
葉が物の怪へと変化した。
「私も陰陽師だもの」
御柳の首筋に一筋の汗が流れた。
こいつ、いとも簡単に葉に式を憑依させやがった!
俺でもあそこまで手際よくやれる自信ねえぞ!!
「成る程、蛇神さんがこの非常時に俺様を走らせた訳だ。
俺は陰陽師生の猿野天国。陰陽師の頭蛇神尊様からの
言伝だ。『力を貸してくれ』だとさ」
は蛇神という名を聞いて顔が真剣になる。
「私は辻陰陽師の。
仕事の内容と引き受けた場合の報酬は?」
「あ、俺は陰陽師生の御柳芭唐だからな。仕事の内容は主に退魔。
報酬は上質紙百枚と布二反に米三俵。それでも駄目なら
仕事を受けてくれたら要相談だってさ」
御柳がすらすらと報酬を告げるとは悩むように手をあごにあてた。
結構良いわね。っていうかその辺で依頼受ける五倍は良い報酬じゃない。
「ってことはかなり厄介かつ時間なしって事ね。
…でも、他ならぬ蛇神殿の頼みだし引き受けますか」
それに、蛇神殿関連で宮廷陰陽師二人にユタの三人が出迎え
ってことは…あの力が借りたいって事なんでしょうし。
多分、あの事に関係してるのでしょうね。
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