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申し遅れましたが私は。中1年です。
ただ今中学女子日本選抜の合宿でここに来ています。

「うだうだ言ってないでさっさと行くよ。
夕食の時間なくなっちゃうじゃん」

「咲、夕食の前にお風呂入るのでもいいと思わない?」

いま私の背中を強引に押しているのが3年の砂川咲。
私達のリーダーで良い先輩なんだけど…。

「今日はもう駄目」

融通はあまり利かない。本気で融通が利かないなら
年齢関係なくチームメイト全員名前呼びなんて命令
しなかったのだろうけど、他の規則には煩い。

「諦めが肝心だよ」「すっぱり笑われな」
「恵子と由香まで酷いよ!」

同じく3年の小沢恵子と藤里由香の慰めにもならない
アドバイスに更に気が落ちる。

「都選抜までこの施設とは…」
「うち、あいつ等絶対いると思うわ」

3年・菅原真紀と私と同じ2年の大塩加奈子が含みを持った
会話をするが、今の私の耳にはまったく届いてない。

この5人と先ほどの3人同じ1年の加西2年京極忍と
切原琴美は春の大会と選考会で知り合っていたので今は
共に行動をしている。

「少し変装でもしてみる?髪を流してみて恵子から眼鏡
でも借りて」
「忍できる?」
「やれるぞ」

スッと出てきた美容院で使うような櫛に、嫌な予感が
したのは私だけ。
他の皆は十中八九面白そうな予感をさせていただろう。

「知―らない」

恵子のあきれた声がどうにも耳に張り付いた。


*



「完璧だ」

忍の満足した声と表情はいつものクールな顔立ち
から想像できないほど晴れやかなものだった。

「楽しかったぞ」

忍はありがとうと言って使った道具を片付け始めた。

忍は次に背が大きくて、冷静に物事を見る
ことができる。
私は迷惑なくらい騒がしいって程じゃないけど、
落ち着きが足りないから昼間みたいなことが
あるんだろう。

「それはどうも」

は変装させられた自分の姿を鏡でみる。
腰よりも長い、まるで黒い蝶の羽といわれた髪はいつもの
ストレートはなく、ふんわりと柔らかくカールしている。

恵子から予備のちょっとフレームのゆるい眼鏡を借りて、
最後に軽くお化粧され、いつもよりずっと乙女チックで
大人しい印象を与える。

「ちょーカワイイ!!!」
「ぐえ」

が渾身の力で体を締め付け、蛙の鳴き声のような声が出た。
まったくもってこの相棒は力の加減を知らない。
は学校も同じで私の相棒。

12歳にして177cmもある身長と中性的な顔立ちで男の人
と間違われる時もあるけど、数歩前を見る洞察力は
キャッチャーとしてこれほどふさわしい人物はいないと
確信させる実力で私に足りないものをいっぱい持っている。

「これならいけるんじゃない?は髪は本当に綺麗よね」

琴美はカールしたの髪を玩ぶ。

「はいはい。顔とスタイルで琴美に敵うとは思ってないよ」

私は小学生に間違われることがあるけど琴美は綺麗で大人
っぽいし、出るべき場所がちゃんと出てる。
昔コンプレックスだったという天然パーマも琴美の美貌を
損なうものじゃない。

「これならいいでしょ?さ、行きましょ」

咲は先頭きって歩き出したのでの影に
隠れるように一緒に歩き出した。

時々思うんだけど、私はすごい人達と仲間だよね。
私の中にあった壁を簡単にぶち壊しただけある。



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