#12
部屋は異様なほど沈黙していた。
其々がの本音に気が付けなかった事を悔やみ、反省している。
プツリッ
電源の切れる音がした。
新井が機械を止めた音だとわかったのはそれしか動くものがなかったから。
「俺が出来るはここまでだな」
どこか、悔しそうな声色だった。
「私達にできる事はがし終わった感があるわね」
コンコンとシャーペンの先を机に当ててリズムを作るのは下重。
「俺らじゃ、どうにも出来ない問題だからな」
野球をする少女がぶつかった壁はとても厚く、嫉妬を八つ当たりという
愚かではあるが1番簡単な方法すらとれずに耐えていたのが今の不調に
繋がったのは明白だった。
鳥のような羽根ではなく脆い蝶の翅。
鳥と蝶・羽根と翅。
読みはどちらも同じなのに、蝶は鳥よりも脆く、弱い。
皮肉な事になんとも今のに似合ってしまっている。
「どうしよ…僕、ちゃんに酷いこと言っちゃった・・・」
どうして、あんなにいつも笑えるの?悔しくないの?!
本当は、あの時の僕と同じ気持ちを、ずっと、ずっと持ってて、
ずっと隠して、耐えてたんだ…。
「私…今まで…一緒にいて…何も気づいて上げられなかった…」
兎丸と凪は言葉を詰まらせながらそう言葉を出す。
「全員同じだZe」
虎鉄は慰めるように声をかけた。
「こッれじゃ野球部の俺らには話ッせねぇよな」
獅子川も、いつもの五月蠅いほどの元気は隠れてしまっている。
は馬鹿ではない。これを当事者に話して生まれてくる
亀裂をこの時期に生み出す訳にはいかないと知っていた。
羊谷がよく口にする我侭娘の意味をようやく理解した気がする。
どこまでも理性で道を歩き、その為には自分の不利益を受け入れる。
それは我侭と思えなくもない。
は負担を背負うことを厭わない。
それこそ、危険なのだ。
「でも、さんは大丈夫な気がするっす」
子津が語り始めて、耳をかたむける。
「何だかんだ言って、さんはやっぱり強いっす。
こんな所で挫けたりはしないと思うし、さっきので本音を吐けた
なら今のところは僕らが何かする必要はないと思うっす」
さんは進もうとする強さはある。
あれは、つい最近の僕と同じ気持ち。
だからこそ分かる。
「緊急合宿の後の新聞とか見ても、さんがこれからを動かす
大きな人になる気がするんす。だったら、僕らはその背を押して
あげればいいっす」
さんが皆に、僕にしてくれたように。
可能性はないに等しくても、彼女ならばいつか叶えてしまう
力があるのだから、それが伸びるように。
猿野が自分の手の平をじっと見つめてる。
「俺もさ、に特別何かしようとしなくてもいいと思うぜ」
は自分より一回り小さな体をしている。
でも、自分よりも大きいと感じる。
「もちゃんと人だよなー」
嫉妬も憎しみも持ち合わせているとようやく知った。
自分達が嫉妬されていたとまったく気づかなかった。
それは、がそんな様子をまったく見せなかったから。
「それでもすっげー強いよ」
自分の嫌いな部分を認める事の出来る強さは
本当の強さでないのだろうか。
子津と猿野の本心を語る会話は、自身の形にならない声を
代弁しているように感じた
「…お前達野球部は、だから認めてるのか?」
「その通りです石坂先輩。少なくとも私はさんだからこそ、
力を知っているからこそ女性であっても選手として認めています」
辰羅川が臨時に用意されたパイプ椅子から立ち上がった。
「俺も辰と同じだ。女でも野球はやれる。
それを知ったのはがいたからだ」
犬飼も恰幅の良い体躯を起こした。
「もし、と敵対関係になってもそれを通せる?」
下重の問いかけに答えたのは牛尾。
「無論だよ。君を選手として認めてるのは部員全員だ」
意思のある火の灯る目。
野球部員は牛尾の答えに其々が同意をしめした。
「分かった。の好きにさせておこう。
今からいけば6時間目は間に合うな…全員ごくろうさん。
助けが必要になるまでもうちょい待とう」
石坂の終了の合図で一人一人が部室から出て行った。
「石坂、鍵どうする?」
新井が最後に振り返って右手に握りしめてる鍵をみせる。
「俺が放課後まで持っておくよ。と迎えに行ってやってくれな」
「ああ」
パタンとドアは閉まり、部室には石坂だけが残り再び空間が沈黙した。
「知らなけりゃ教えればいいってか……動くか」
何がと返す言葉を放てる存在はここにはいなかった。
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