#11
空が好き。
グラデーションの青が綺麗で、すぅって吸い込まれそうな感覚が好き。
疲れるといつの間にか空を見上げている。
「、聞き流すから、話してよ」
「……失望するよ、私に。嫌いになっちゃうよ」
「アタシが決めるからいいよ」
が覚悟決めたように隣で座り込んで、ふわぁ、
と髪紐を取り去ったの髪が風に揺れた。
「自分が大嫌い」
最初の一言はそれだった。
「醜いんだよ…ずっと嫉妬してるんだもん…。
私の出来ないことを出来てる野球部の皆に嫉妬してる。
その嫉妬を隠しきれないのに、皆にぶちまけもしない臆病者で
…こんな自分を知られて嫌われるのを恐れている自分が愚かしい。
たったの145g前後の球を追いかけて、打って、投げて。
することはいつもと同じなのに、あの場所に立つと
全身に生きてる実感が湧き上がる」
の見開いた目が私を見つめ、私はその視線から逃げるように
後ろに倒れて仰向けになる。
視界が更に広くなった。
「ソフトボールに戻ろうかとも考えたけど、ソフトよりも強い相手
のいる野球を知っちゃったんだ。
私も黒撰と戦ってみたかったしこれから戦うセブンブリッジとも
華武とも戦ってみたい……極論、十二支とも戦ってみたい」
太陽の光で暖まった床に髪が広がって、本当に羽のように見える。
すっとは上体を起こして、立ち上がる。
空を見上げ、手を目一杯伸ばしてみる。
「届かない」
高い、空。
「女で何が悪いの?」
言の葉が。
「何で私は、皆のサポートで満足できないの?
凪ももみじも檜も先輩たちも出来てるのに」
1つ。
「私には力がないの?」
また1つ。
「男に対抗する力が、足りない?」
また1つと空に放たれる。
「私は、男である皆にも劣らない自信がある!!
あの場所に立ちたいの!!
溢れてくる、止められない!!
自分の力を、あの場所で確かめたい!!」
叫びは空中に溶け込んでいく。
「十二支で、選手として、甲子園を目指したいと
願うのは私には許されもしない!!
それがたまらなく悔しい!!」
ダンッ
急に崩れるように座り込んで上げていた方の手を勢い良く床へと振り下ろした。
「嫌いよ…こんな我侭な、八つ当たりで皆に嫉妬してる私なんか」
ありがとうっすさん。 ちゃん大好き〜!
とりあえず、疲れたなら休んでおけ。
ちゃん平気と? 頑張ってるNa〜。
、頼んだのだ。 お疲れ様君。
こんな私でも彼らは私を好いてくれている。
それが嬉しいけど、こんな感情を隠している後ろめたさは更に重くなっていく。
「でも、これが私なの。この感情も私自身なの」
苦しい声はか細くなっていく。
はをまっすぐ見る。
いつも生命力に溢れた優しくべたつかない声が弱弱しく、それ故ほんのりと愛しい。
強くて、賢い、誰からみても素晴らしいといえる私の友達は
実は自分を隠せない器用貧乏な人。
まっすぐに前を向いていても、端から襲ってくる恐怖に心の底では怯えていた。
安心した。
は私に弱さを見せられるだけのもっと強いものがあった。
「……私はが好きだよ。の体ってあったかくて、落ち着けて大好きだよ。
自分の嫌な所も自分だって認められて、いっぱい強くて、それで優しいから」
はゆっくり呼吸を吐きながら言葉を紡ぐ。
「は私にも文芸部の先輩達にも野球部の人達にも沢山の
人達に色々してくれてたんだよ。
その位の我侭なんか我侭にもならないよ。
嫌いになれないよ、失望なんてする必要ないじゃん」
ぽんとがの背中に手をおいた。
「私はの悩みをどうやって解決すればいいのか分からないけど、
悩みたいならいっぱい悩んでいいよ。私にいっぱい話してくれていいよ」
は、沢山の記憶が脳内を駆け巡った。
「死ぬな!!!!」
一番最初に会った時に言ってくれた。
自分から大切なものを無くそうとしてたアタシを必死に助けてくれた。
「人生諦めないでよ。嫌な事の後には良い事あると思いなよ」
本当にいっぱい良い事あった。
「…大丈夫、怒ってないよ。だっては人に嫌われる
怖さを知ってるんだもん。しょうがないさ」
許してくれた。それどころか、また助けてくれた。
「がしたい事最後まで手伝うから。私が出来る事少なくても、
一緒にいる事はできるから。
だから、私の前では我慢しないで」
アタシはに沢山ありがとうって言いたい事をもらったんだよ。
恩返しさせてよ。の力になりたいよ。
「ありがと」
簡素で、飾りのないお礼だけしか言えなかった。
「うん」
それだけでも、通じた。
それが、嬉しい。
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