#4
「紅印〜お願いだよ〜。せっかく凪とちゃん来てくれたんだしさ〜」
手を合わせて土下座してまで剣菱は最後の最後まで
紅印に食いついていた。
「可哀想になってきたヨ」
ワンタンは情けないのか同情心が出てきてしまう。
「しょうがないわね。じゃぁラスト3球だけよ。
ただね…アナタはあくまで秘密兵器。それを肝に銘じていてね」
紅印は最後に念を押して剣菱をマウンドに上げた。
「・・・っあれは」
「うそ、剣菱さん!?」
なんで後1打席なのに、いや、だからこそかな。
「、何故今になって登板したと思うか?」
監督は目線を私によこして来る。
「おそらく、私達がいるからですね。剣菱さんは凪を大事に
思ってますし、良い所みせたいのが本音でしょう。
それに、昨日私達の試合を見ているからそれをお返しも兼ねて
いるかもしれません。もしくは……挑戦状ですかね」
ここまで来い。
そう示したいから。
「そうか、しっかり見とけ」
「はい」
『4番ピッチャー遠山君』
江戸桜にしてみればふざけた話よね。
こんな時に出られてもお遊びにしか思えないもの。
「貴方達はいつもナントカ力で勝てナントカ力で勝てって
いい続けてきたわね…でも気づかないかしら?
一番重要な言葉が抜けてる事に」
紅印はキャッチャーマスクを被って打者へと問いかけた。
足らない言葉は、実力。
「紅印〜限定3球だったよね〜」
剣菱は嬉しそうにマウンドに立ち、肩を振りあげた。
「斜め上の振り上げ、スリークォーターね」
オーバースローとサイドスローの中間の投法。
投げられた球はストレートかと思えたが、
打者の手前で微かに揺れて紅印の構えるミットへ飛び込んだ。
ドパァン
「ストライ〜〜ク!!」
「ムービングファストボール。略してMFB。
蛟竜と類似する球ね」
「まさか国内、それも高校野球でこの球を使う投手がいたとは……」
「あのねぇ辰君」
貴方達の投げている球も、高校生が投げるような球じゃないわ。
残り2つもね。
その言葉は、声には出さないでおく。
まだ、話すには私も、3人も準備が整っていない。
「ストライクツー!!」
もう1球もかすりも許さないピッチング。
「もう終わりかぁ〜。ビミョーに物足りないな〜。
じゃ、ラストは…秘密兵器のお試し版大出血サービス」
振り上げて力を得た球。
それは……未知だった。
「ゲームセット!!互いに礼!!」
「「「「有難うございました〜!!」」」」」
試合が終わり、球場から出ると煮えたぎった思いが
抑えきれない1年が一斉に走り出していった。
「ははっすっかり置いてきぼりになってしまったね」
「若いねぇ。青春だなオイ」
しみじみいう監督にはちょっと背中が哀愁漂っていて
なんとなくからかいたくなった。
「監督の青春は20年前に終わりましたからねぇ」
「うっせぇ。テメェの親父達と同年代だぞ俺は」
「そりゃそうですね……監督、剣菱さんの
最後1球は私でもよくわかりません」
「俺もだ。牛尾はどうだ?あの球の正体はわかるか?」
「今の所少なくともMFBではないという事くらいしか…」
「そうですね。でも、球があんなに深くめり込んで、
驚異的な力が加わっている事も確かでしょうね」
ほんと、強い人がいっぱいいるわ。
ここの野球には。
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