#44 勝利
試合終了の宣告がなされて、十二支には緊張の面持ちから
歓喜で満ち溢れた表情へと全ての人間が変化した。
「やっ…やったっす〜〜〜〜!!」
「うおおおおおおおお」
「「「「「「「勝ったァ〜〜〜〜!!!!!!」」」」」」
子津へとダイブするようにみんなが集まってきた。
勝利の甘味が全体を包み込んでいる。
「すごいすごーい!!何最後の!?上手かったね〜〜!!」
「猿野君本当に有難うっす!僕の球を受けてくれて!!!」
「馬鹿、子津との作戦が良かったんだよ。
それにもう絶対ヘマする訳にゃいかなかったからな」
スタンドの十二支部員も大声を上げて喜びを表している。
その中で、はどさっとベンチに座り込んだ。
「終わった……」
勝った……もうそれだけが理解できてる事。
体中全ての存在がそれだけで火照ってしまう。
「凄い……久しぶりだよ、こんなに全部が勝利に酔ってるの」
今は、影が全部隠れてしまう。
「ん?廊下から音…まさか!?」
ひたりひたりと来る足音が鼓膜を震わせ、
は廊下へと続くドアを開けた。
「蛇神先輩!!」
医務室を寝抜け出し、壁を伝い不安定に歩く蛇神をは見つけた。
「…殿か…」
「肩貸します。ゆっくりでいいです」
は蛇神の手を自分の肩へと回して支える。
「声が…聞こえてくるのだ…皆の歓喜の咆哮が…」
「それは、先輩自身が確かめて下さい」
はするりと蛇神の目を隠していた包帯を解いた。
見えてても、見えなくても、瞳に映したい光景だから。
「殿…これは現か、幻か…」
「……み、見えてるんですか!?」
蛇神の巻いていた包帯を握り締めは期待を込めた。
「ああ、どうした事か…おぼろげに浮かび来るは十二支の
締りのない笑顔ばかりよ…」
虚ろながらも開かれている蛇神の目の先には仲間達が
一目も気にせずに喜び合っている。
腕に感じる自分と比べるとひと回り以上小さい肩は
しっかり自分を支えてくれている。
至上の喜びが、胸から全身へと駆け巡った。
牛尾や猿野、虎鉄等が蛇神の存在に気がついて
こちらへとやってくる。
蛇神の目が回復の見込みがあると分かるとさらに顔をほころばせた。
その歓喜の中では、一人ぽつんとバッターボックスに
膝を付けている由太郎が目の中に飛び込んでくる。
今、いつものように手を差し伸べる事はできない。
私は、十二支という勝者の一人だから。
そのままは由太郎を見ていると、のろのろと由太郎は
立ち上がって黒撰のベンチへと戻っていく。
黒撰のメンバー達は声をかけることはしない。
そして、由太郎は立ち止まり、勢い良く体を折り曲げた。
「みんなごめん!!」
下げた頭をゆっくり上げ、由太郎は
貼り付けた笑顔を皆へとむけた。
「やられちった…へへ…次の試合…連れてけなくてごめんな」
「由太郎」
魁は弟の前まで歩いていく。
「兄ちゃん…俺…伝説やぶってみせたのに…なぁ。
でもよ…そんなのもう、いいんだ」
声は、震えて聞き取りづらい。それでも1つ1つの感情のこもった
言の葉は皆の心へ浸透していく……。
「波羅田先輩、烏兎先輩…長楽先輩、斎藤先輩
緋慈華汰さん、うどん先輩…兄ちゃん」
そこで途切れる。
由太郎の目から大粒の涙が次々に溢れ出して、
塞き止める事はかなわない。
「みんなで一緒に甲子園…行きたかったよ…」
それを聞き、黒撰は抑えていた感情をすべて垂れ流しにする。
「ユタァ」「由太郎〜!」
黒撰ナインは由太郎の元へと駆け寄って涙を流す。
また、球場の土は塩辛い水を吸っていく。
それは過去も同じで、未来も変わる事の無い夏の場面であろう。
「みんな、よく戦った…」
村中監督は選手達に一言、それだけを伝えた。
「か…監督!すみませんでした!!俺ら、いや俺の
実力不足で…監督はこんな所で小さく終わっていい方
じゃないのに…魁ちゃんもユタも…」
小饂飩の自答に監督は首を左右に振った。
「戦いに大きいも小さいもあるものか…。お前達は俺の
誇りだ…気持ちのいい戦いをみせてもらったぞ。
相手は我が母校…十二支高校だったのだ…悔いは無い」
「只今の試合7−6で十二支高校の勝利です!!互いに礼!!」
「「「「「「「「有難うございましたぁ!!!!」」」」」」」」
また1つ、戦いが終幕した。
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